「ああはなりたくない」と思った2種類の女について

「12人の優しい日本人」という映画が好きで、大学の頃から今までに20回以上みています。「もし日本に陪審員制度があったら」という設定のもと、陪審員として集められた "12人の日本人" が議論をするさまを、コミカルに描いた名作*1。今回は、そこに登場する「2人の女」について書いてみようと思います。

典型的な日本人の女

集められた12人は、それぞれ年齢も職業もバラバラです。が、いずれも「こういう人、職場にいそう」「まさに典型的な日本人」という印象。「会議ではだんまり作戦がいいのだ」と主張して、さっさと帰ろうとするサラリーマンや、論拠を問われて「フィーリングかな…」と言っちゃうおじいさん。

最初に見た19歳の頃は、次の2名の登場人物に対して、猛烈なイラ立ちを覚えたものです

1)主体性のない、おばさん

林美智子さんが演じる、ふくよかで優しい感じのおばさんです(50代くらい)。この女性は、被告人を無罪とする根拠を問われても、何も言わないのです。「だって…そんな酷いことをするような人には見えないんです…」これでは全然、議論になりません。

そのくせ、出前のドリンクをみんなに配ったりするときは「私やりますから」と張り切る。典型的な、「他人を優先し、ケアしたがる女」です。休憩時間には、刺々しい言葉で自分を論破しようとしていた若い会社員の、スーツの袖のボタンが取れているのを発見。「つけましょうか」と歩み寄り、断られても、針と糸を取り出して(やや強引に)相手のケアをしようとする。

これまでの人生、夫や子供のことを再優先に考え、自分の「意見」なんて持つこともなかったんだろうなぁ…という感じです。今の自分がみれば、この「おばさん」は典型的な日本人の「母」として描かれており興味深いのですが、最初に見た19歳の自分は、このキャラが最も許せなかった。大学に入ったばかりで、「自分は努力して真理を探求し、社会に還元するのだ!」と意気込んでいたきらいもあります。

そんな、おごった考えをもっていた自分にとって「主体性のないおばさん」は、「家父長制の中で抑圧され、飼いならされた結果、自分の頭で考えることをしなくなった日本の母親たち」の代表に見えたものでした。

あんな風には絶対、なりたくない。だから勉強して上を目指すのだ。そう思った記憶があります(上って何ですかね)。彼女の台詞で「そんなふうに…考えられるなんて…あなたの心はねじくれ曲がってます…」というのがありますが、まさに私も「ねじくれ曲がって」いたと思います。

2)「もう分かんなぁ~い」と言う女

もう1人は、山下容莉枝さん演じる専業主婦の女性。30歳前後とみられ、5才になる息子がいます。彼女は、被告人の若い女性(水商売のシングルマザー、21歳)をさりげな~く非難しますが、自分の意見として具体的なものがあるわけではありません。

容姿は可愛らしく、男性に媚びを売って逃げるテクニックにも長けています。意見を求められると、「もう分かんなぁ~い!」と逃げる。周囲も「ま、いいでしょう」と、彼女に多くを求めません。

このキャラについても、19歳の自分は猛烈な怒りを覚えました。なんて向上心のない女なんだ。思わず、夏目漱石の『こころ』に出てくる「精神的に向上心のないやつは馬鹿だ 」という名言を持ち出したりして、彼女をバカにしました。とにかく「ああいうふわふわした主婦にはならんぞ!だから勉強するのだ!」と、これまた鼻息荒くしたのを覚えています。

可愛らしい奥さんである彼女は、男社会の中で頑張って上を目指そうとはハナから思っていない。チヤホヤされたいだけです。そういう女が「典型的な日本人」として描かれていることにガックリしましたし、向上心のない彼女を見下しました。今なら、「まぁこういうのが、パロディってやつだよね」と笑えるのですが。

「女」への怒りの矛先

「主体性のない、他人をケアするだけのおばさん」や「男社会に甘える若い女」が、日本には沢山いたのだと思いますし、今もけっこういるのだと思います。彼女たちのようにはなりたくない、自分は男社会に従属したり、甘えたりしたくない、男社会をものともせず、「対等に」認められる女になるのだ!

こういう考え方は「ミソジニー(女嫌い)」の裏返しです。女である自分が「主体性のないバカな女」を忌み嫌うのは、結局のところ男社会を優位なものとみなし、そこで性別に関係なく認められることが、成功する道だと信じているから。それは結局、男=優れている(女=劣位に置かれる)という構造を受け入れるどころか、自ら再生産しているだけでした。

男社会に従属し、他人のケアに生きがいを感じる「母」や、男社会にこびを売り、そこから最大限の利益を引き出そうとする「若い女」。どちらも「性別など関係なく業績を評価されたい」自分にとっては受け入れがたい存在でしたし、今もまだ、そういう考えから自由になったとはいえない。

が、そういう女の存在を「自分と切り離して」考えることのできた、19歳の自分は、ある意味ラクだったし、本質的な問題から目をそらしていたのかなぁと、思うのでした。

「12人の優しい日本人」、今更ですが、おススメです。

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【北条かやプロフィール】

86年、石川県金沢市生まれ。「BLOGOS」はじめ複数のメディアに、社会系・経済系の記事を寄稿する。同志社大学社会学部を出たのち、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。会社員を経て、14年2月、星海社新書より『キャバ嬢の社会学』刊行。

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*1:元ネタ「12人の怒れる男」が大変良かったので、日本版のパロディも見てみたのですが、違いがとても新鮮でした(原作は人種問題が主題ですが、日本版ではそれが「成立しにくい」のでどう描かれるのか等)

学生の「アルハラ」、新歓のノリと空気に殺されないで

入学シーズンですね。お花見や新歓コンパに参加する人も増えると思います。一方で毎年、学生の「飲酒事故」が後を絶ちません。(若者を死に追いやる「イッキ飲み」、アルハラを防ぐには?- 北条かや- Yahoo!ニュース

悲しいことに、コールでの大量飲酒や「イッキ飲み」を 「伝統」 と勘違いしている部活やサークルが未だに沢山あるのです。

学生の6割「飲め!と言われても、断れるかどうか…」

飲酒の強要などで子を亡くした親らでつくる「イッキ飲み防止連絡協議会」では、93年から毎年「イッキ飲み防止キャンペーン」を展開しています。その一環として、学生らに「アルハラを断ることができるか」とアンケート調査したところ、33%が「断れない」、27%が「わからない」と回答しました※飲酒事故に興味のある学生からの回答なので、実際はもっと多いと思われます)。

学生たちが飲酒を断れない理由は、「ノリが悪い・空気を読めないと思われたくない」といったものが目立ちます。こういう「空気読め圧力」が、まさにアルハラなのですが。

「空気」が人を殺す

自分もそうでしたが、大学に入りたての頃は、友達ができるかどうか、すごく不安なものです。サークルでも部活でも、とにかく「仲間」に入れてもらわなきゃ、仲間に入れてもらうには飲んで場を盛り上げなきゃ……との焦りから「自分、飲みます!」と言ってしまう同級生をよく見かけました。

そういう「空気」が人を殺すことが、本当にあるのです。

東京大学 2年生男性 死亡日:2012年7月28日

7月27日夕方ごろから、所属する運動系サークルで、隅田川花火大会の場所取りをするため集まった仲間や社会人のOBも含め41名で飲酒。翌28日未明に体調を崩し、急性アルコール中毒で搬送され、病院で死亡が確認された。 

車座でフォークダンスのマイムマイムを歌い踊り、演奏が止まると誰かが中央の焼酎を飲むルール。飲む人や量は自由裁量だったとされているが、誰かが飲まなければならない設定であり、飲む人は称賛され、場が盛り上がったという。 

コールがある間は、焼酎の原液を呑み続けるルールがあり、東大駒場キャンパスに40年以上続くサークルの伝統的な飲酒儀式であった。 

周囲の学生は意識を失った者を介抱せずに放置しており、119番通報された時点で、死亡後約2時間が経過し、死後硬直が始まっていたという

急性アルコール中毒等による大学生の死亡事例  2001~14  イッキ飲み・アルハラ防止キャンペーン2014より、下線は引用者)

コールでの大量飲酒が「伝統儀式」。酔いつぶれた学生は別の部屋で放置され、吐しゃ物を喉に詰まらせて死亡。飲酒事故の多くが、このパターンで起きています。

「見守る役割」がいればOKなのか

知人の体育会出身者いわく「ちゃんとした部活では、酔いつぶれた仲間を別室に運んだあと、きちんと"見守る" 役割が用意されているし、飲酒事故を防ごうという意識はあったよ」

言いたいことは、よく分かるのです。仲間同士の絆を深めるため、お酒を飲みながらのコミュニケーションが重要なのも、分かる。ですが「酔いつぶれた学生の容態が急変しないか見守る役割」が必要なほど飲ませるのが当たり前になっている現状は、どう考えてもおかしいと思う。

個人的な話になりますが、身近に飲酒事故で亡くなった人がいます。その部活の幹部学生は、「もうそのことは聞かないでくれ、勘弁…」と言っていました幹部として責任を追求された彼は、こちらと目を合わせることもできず、憔悴しきった様子だったのを覚えています。

彼が全ての責任を負う必要までは、ないのかもしれません。が、やはり1人の命を奪った責任はあるんだよ…と思いました。けれども、そこまでは言いませんでした。

次のような記事もあります。

2年前、大学のサークルでの飲酒後に亡くなった1年生の男性(当時20)の母親(50)は、今も心の傷が癒えない。夫と病院に駆け付けると、変わり果てた長男の姿があった。着ていたシャツやスエットは吐しゃ物や排せつ物にまみれていた。「こんなになるまで……一体、何があったのか」

事実解明を求める両親に対し、大学がまとめた報告書では、打ち上げ当日の事実関係の記述はA4判の二ページだけ。集団心理やゲーム感覚、「誤った伝統」による過度な飲酒は認める一方、「飲酒の強要は認められない」とした。やり場のない怒りと悲しみ。「息子は勝手に飲んで、勝手に死んだのか。そんなはずはない」。

何人もの部員に話を聞くうち、焼酎をついだ先輩の一人が言った。「飲まなきゃいけない、つがなきゃいけない雰囲気だった。皆そうしてきた」。長男は何度も吐く姿を目撃された。その異常さに誰も気付かなかったのか。もっと早く救急車を呼んでくれれば…。

母親は長男の死後、長男が生前に使っていた部屋で寝ている。あおむけになると、はにかんだ笑顔の遺影が目に入る。「おはよう」「おやすみ」。毎日、話し掛けている。

事故後、サークルは解散した。だが、他の大学で同様の死亡事故が続くと、胸が張り裂けそうになる。「息子は命を懸け、アルハラの“伝統”を止めた。こんな悲しい思いをするのは終わりにしてほしい」

中日新聞:「アルハラやめて」母の叫び 後絶たぬ死亡事故より抜粋、引用。詳しくは全文をご参照下さい)

学生さんは飲酒を強要されても、どうか断って下さい。気分が悪いフリをしてでも、逃げて下さい。それで切れる人間関係など、あなたの人生に全く必要ないと思います。

【北条かやプロフィール】

86年、石川県金沢市生まれ。「BLOGOS」はじめ複数のメディアに、社会系・経済系の記事を寄稿する。同志社大学社会学部を出たのち、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。会社員を経て、14年2月、星海社新書より『キャバ嬢の社会学』刊行。

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大島優子(25)の卒業と安室・あゆ・宇多田の25才

AKBの大島優子さん(25)が、6月2日の劇場公演をもって同グループを「卒業」しますね*1。30日には国立競技場で予定されていた卒業セレモニーが荒天のため中止となり、ファンの前で謝る大島優子の姿が芸能ニュースで取り上げられました*2

25才というのは女性にとって、転機の年です「お肌の曲がり角」なんて使い古された表現もありますが、新卒で就職したなら「3年目OL」。『Cancam』では「1年目OL」に対して、もうキャピキャピしてらんねぇぞ!的な立場の役どころです。

新人の指導を任されることもあるでしょう。仕事にも慣れ、ルーチンワークをこなす毎日。「本当にこの会社に勤め続けるの?そろそろ結婚も意識した方がいいのかな?」なんて悩みも出てきます。

実際、女性が転職を考え始める年齢は男性より数年早く、24~25才なんだとか*325才の国民的アイドル・大島優子さんにも色んな思いがあったことでしょう。

かつて一世を風靡した歌手たちもまた、「25才」で何らかの転機を迎えていました。安室奈美恵浜崎あゆみ宇多田ヒカル彼女たち3名の来歴をたどり、大島優子と比べてみると*4大島優子がなぜこれだけ多くの支持を集めるのかが分かるのです。

もはや伝説?安室奈美恵の「25才」はSAMからの卒業

90年代半ばにコギャル、アムラー現象を巻き起こし、現在も女子のカリスマで居続ける安室奈美恵(36)。「彼女を表紙にすれば、女性誌は売れる」とも言われます。アラフォーにしてなお、若い女性たちの憧れである彼女。デビューしたのは15才の時でした。

小室哲哉プロデュースのもと、10代でミリオンヒットを連発19才で史上最年少のレコード大賞に輝きます。20才でダンサーのSAMと電撃結婚&妊娠を発表*5。「CAN YOU CELEBRATE?」で、2度目のレコ大を受賞します。紅白歌合戦では20才の若さでトリをつとめました。

しかし育休復帰後は、かつての輝きを少しだけ、失っているかのように見えた安室奈美恵。22才の頃には、母親が殺害されるという悲劇にも見舞われます。その後は、人気にも陰りが。

そんな彼女は、24才で小室哲哉のプロデュースを離脱。ヒップホップやR&B調の曲へとシフトします。ZEEBRAなどとのグループ活動をスタートさせ、自らの新境地を開拓していったのです。

彼女は「25才」で、夫のSAMと離婚しました安室奈美恵の25才は、夫と別れ、「Queen  of  Hip-Pop」*6となっていく転機の年だったのです。離婚後、安室奈美恵は両腕に、亡き母親への愛を誓ったタトゥーを入れたそうです。

いやはや、ここまでめまぐるしい25才までの人生を他に知りません……10代で国民現象を起こし、数々の記録を塗り替え、妊娠、結婚、出産、母の死、そして離婚、再びダンスと歌の新境地を希求し、歌姫の座へと返り咲いた25才でした。

浜崎あゆみの「25才」はレコ大「3年連続受賞」の最後の年

安室奈美恵の1つ年下の浜崎あゆみ(35)。彼女が、子役やモデル活動を経て歌手デビューしたのは20才の時です。CMや雑誌に登場するたびに「あの可愛い子は誰!?」と大人気に。歌詞の世界観や独特のトークなども受け、「あゆ」は女子高生のカリスマとなりました。

00年代前半は、女子という女子が「あゆ」の曲を着メロにし、メイクやファッションを真似していた。一人称が「僕」で始まる彼女の曲は、ギャルのみならずメンヘラ系女子までを魅了し、ケータイ小説の文体にも影響を与えます*7長瀬智也との堂々たる交際も、多くの女子にとっては憧れでした。

そんな彼女が「25才」を迎えたのは2003年。レコード大賞3連覇の、最後の年でした。ここが彼女の転機だったかもしれません。翌年には総合司会を務めていた番組『ayu ready?』が終了。この頃からCM等の多くを降板しているようです。でも、前しか向かねぇ。プロモーションビデオに凝り始めるなど、自己プロデュースに力を入れて行きます。

ごく最近では熱愛報道ばかり話題になる浜崎あゆみですが、デビューから25才までは、まさに「美とファッションのアイコン」でした。安室奈美恵と同様、ギャルカルチャーを形作ったのは間違いないでしょう。

 16才でアルバム800万枚を売った宇多田ヒカルの「25才」

最後は、あゆの5つ下で83年生まれのシンガーソングライター、宇多田ヒカル(31)です。彼女の歴史は98年、弱冠15才でデビューシングル「Automatic」がいきなり、ミリオンセラーとなったところから始まります。ソファに座って気だるそうに体を揺らして歌う彼女の、ミステリアスな魅力(※そして母・藤圭子の存在)に、日本中が夢中になりました。

16才の時にはアルバム『First Love』が800万枚(!)の大ヒットとなり、日本史上記録に。19才で映画監督と結婚。21才で全米デビュー*8

24才のとき、彼女は離婚を発表します。このときすでに、日本を代表するシンガーソングライターの地位を手に入れ、海外進出を果たし、結婚と離婚まで経験している宇多田なのでした。 

彼女が「25才」を迎えたのは、離婚後の2008年。周りはうるさいけど、前しか向かねぇ、という感じで20作目のシングル「HEART STATION」は、自身の最高オンエア記録を更新。そのわずか2年後、27才で「人間活動」に専念するため活動を休止します。

デビューから12年、日本の音楽史を鮮やかに塗り替えていった彼女は、「普通の女の子に戻りた」かったのでしょうか。いや、絶対に叶うことのない「普通の女の子」をやってみたかったのかもしれません。まったく普通じゃないから、ここまで名を残す存在になってるのだと思いますが。

安室と宇多田、あゆのカリスマ性はどこから来るのか

こうして3名の人生を振り返ってみると、それぞれデビューから25才までの数年間に、並外れた経験を積んでいることが分かります。それゆに彼女たちは、25才の時点で異様に成熟していた。25にして既に、人生の酸いも甘いも噛み分けたかのような「貫禄」があったのです。悪く言えば、安室も宇多田もあゆも、年相応以上に老けていた

安室や宇多田は、天賦の才と、その後のすさまじい「努力」(を努力と感じさせないほどの並外れた能力)により、カリスマ性を獲得しました。浜崎あゆみは「居場所がなかった…」と、自らのトラウマを歌って女子の心を掴んだ。まるで「涙を流すサイボーグ」のような存在だった彼女もまた、特殊なカリスマ性を帯びていました。

そして3者はそれぞれ、25才以降は少しずつ、勢いを失っていったようにも見えます。若くしてスターとなり、色んな人が群がってくる中で「大人の事情」を知りすぎたせいもあるでしょう。安室も宇多田もあゆも、どことなく斜に構えた感じの「25才」でした。デビューから数年のあいだに燦然と輝きすぎたからこそ、陰もできるのでしょう。 そこで同じく25才の国民的アイドル、大島優子に思いを馳せるのです

大島優子は「凡庸さ」を突き詰めた結果「非凡人」になった

見てきた3名の大物歌手と比べると大島優子はまるで凡庸です。失礼ながら、安室奈美恵らのようなカリスマ性は持ちあわせていない。彼女はAKBの中では最長の芸歴を誇るにもかかわらず、長いあいだ芽が出ませんでした*9

AKBに加入したのは18才になる年ですおニャン子クラブのメンバーたちが軒並み17~20才あたりで解散&卒業したのを思い起こすまでもなく、大島優子はアイドルグループに新規加入するにあたり、決して「若くはなかった」。

カリスマ性もなく、アイドルグループの中では若くもなかった大島優子は、ただただ凡庸な「会いにいけるアイドル」の道を突き詰めました。その結果、彼女は25才の今もまだ、誰もが知る国民的アイドルで居続けている。ちょっとおかしな表現ですが、彼女にはカリスマ性がないからこそ、かえってカリスマ性を感じさせるような、そんな雰囲気があります

大島優子は昨年、情熱大陸に出演した際、次のような発言をしたそうです。

――「 同じように努力したら誰でも大島優子になれますか? 」

大島優子:「なれますね。ただし、 同じ努力は簡単にはできないと思うけど。」 

大島優子が、情熱大陸でついたウソ - ジセダイより引用)

「努力」……安室や宇多田、あゆだったら絶対に言わないし、取材する側も聞かないテーマでしょう。天賦の才に恵まれたカリスマ歌手に、そんなことを尋ねるのは野暮というもの。

安室奈美恵が10代の頃に放送されたドキュメンタリーを見ましたが、彼女はインタビューの中で*10、「努力」という言葉を使っていなかった。むしろ、ただダンスと歌が大好きで、私はそれを追求しているだけ…という印象を受けました。

安室のようなタイプのカリスマには、大島優子の言う「努力」を重ねただけでは、なれないのです。むしろ「努力」という語彙を持たないのが、安室や宇多田のカリスマたる所以でしょう

だからこそ、「他人には簡単にできないほどの努力をしてきましたよ」なんてサラっと言ってのける“国民的アイドル”、 大島優子は特殊なのです。彼女が努力をするのは、良い意味でみずからの凡庸さを理解しているからです。

だがその凡庸さを突き詰めて、結果的に非凡な存在になっている。カリスマとはいえないかもしれないが、なぜかカリスマ性を感じさせる。多くの人が、大島優子に何となく注目してしまう理由はここにあります。

彼女は、3月23日に幕張メッセで行われた「大島優子感謝祭」において、1人で6000人との握手をこなしたといいます。凡庸な「会いにいけるアイドル」を突き詰めた「国民的アイドル」の姿を象徴するようなエピソードだと思いました。

会場には特設の「大島優子ミュージアム」が作られ、デビュー時からの衣装115着をはじめ、歴史をたどる年表や写真など数百点が展示されたそうです。4月12日放送予定のめちゃイケ」では、大島優子卒業2時間半スペシャルが組まれるとか*11。卒業後の映画出演もすでに決定しています

メディアから支持され、多くのファンから愛される彼女。卒業を発表した紅白歌合戦の後は、同じタイミングで紅白から卒業する予定だった北島三郎の「お株を奪った」との批判が大量に寄せられたりもしました。Yahoo!ニュースのコメント欄は北島三郎ファンというより、彼女のアンチであふれていた。それほどに皆、大島優子の一挙手一投足に無関心ではいられないのか…と思ったほどです。

大島優子はAKB卒業後も、芸能界で生き残ってゆくでしょう。その理由は、彼女がみずからの凡庸さを、普通の人の何百倍も理解しているという非凡さ、にあるのではないかと思う次第です

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86年、石川県金沢市生まれ。「BLOGOS」はじめ複数のメディアに、社会系・経済系の記事を寄稿する。同志社大学社会学部を出たのち、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。会社員を経て、14年2月、星海社新書より『キャバ嬢の社会学』刊行。

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*1:AKB大島の卒業公演は6・2秋葉原 チームKでの最終公演で発表:デイリースポーツ

*2:AKB国立荒天延期 大島優子6・2卒業公演に影響も - 芸能 - ZAKZAK

*3:みんなは何歳で転職を考え始める? |転職ならDODA(デューダ)より。

*4:個人的にいずれも特にファンというわけではないため、Wikipediaと個人的な記憶をもとにした記述になりますが、ご容赦下さい。

*5:彼女の「デキ婚」によって少子化が改善されるかもしれないぞ、なんて大マジメに語る大人たちもいましたね。

*6:05年発売のアルバムタイトル。

*7:速水健朗ケータイ小説的。』など参照。

*8:宇多田ヒカルの全米デビューは不発だったとも言われているようですが

*9:卒業・大島優子、前田敦子とのセンター争い、卒業電撃発表…これまでの軌跡を振り返る - モデルプレス

*10:私の記憶にある限りでは

*11:AKB48タイムズ :4月12日「めちゃイケ」で大島優子AKB卒業2時間半SP放送決定!

就活の面接、確かに「普通の会話するだけ」だったけど…

就活生の大きな勘違い 面接は「自分を売り込む場」ではない」という記事を読みました。就活生は面接で「一方的に」自分の話をしがちだけれども、それは間違いである。面接とは「会話の場」。面接官は学生がきちんと「会話のキャッチボール」のできる人間かどうかを見ているというもの

なぜ学生は「一方的な自己アピール」をしてしまうのか

記事には、次のような指摘があります。

面接とは、正しくは「会話をする場」です。会話を通じて、お互いが相手の人となりを把握しようとするのです。会話は、キャッチボールをすることで進むものです。どちらかが一方的に話すのは、もはや会話ではありません。

確かにその通りだと思います。が、こうした「会話」的な面接は、就活初期というより、選考が進んだ場合によく当てはまるものなんですよね。

一次面接は集団で行われることも多く、面接官がストップウォッチ片手に「右の人から1人あたり3分ずつ、自己アピールをして下さい」ということも多々あります。

学生は必死に「◯◯大学の××と申します。私の強みは協調性で…」と自己アピールをするのですが、途中で「ピピピピピ……」とタイムアウト会場には、やや気まずい空気が流れ、「ありがとうございます。では、次の方どうぞ」。自己アピールを意識しすぎるあまり「私の強みは友達が100人いることです!」と胸を張って答える学生に面接官が苦笑い、なんて場面もありました…本当です。

はじめのうちは、こうした集団面接を経験する機会が多いのです*1。なので、学生が「面接=制限時間内に、自分がいかに優れているかをアピールする場」であると思ってしまうのも無理はありません。これを1対1の面接でもやって大コケ…という学生は多いと思われます。

「就活マニュアル」の罪

大学生協には、就活時期になると「Webテスト対策本」やら「受かるESマニュアル」やら、「面接必勝法」などの本が平積みになります。よくある面接マニュアルには「面接とは“自分を売り込む場”である」みたいなことが、たくさん書いてあります。

面接は、いかに自分が求める人物像に近いか、採用する価値があるかを見せる、いわば“自分を売り込む場”です。ただし、自分を売り込もうという気持ちが先に立って、自分目線の抽象的な長所だけを並べても相手には伝わりません。アルバイトやサークル活動など、自分が実際に経験した、具体的なエピソードを交えながら伝えましょう

面接での志望動機・志望理由・自己PRの伝え方。就活対策マニュアル | アデコの就職支援 -新卒の方-より引用)

上記のマニュアルは、世界最大級の人材サービス会社、アデコによるもの。これを読んだ就活生が、「面接では『具体的なエピソード』を事細かに伝えなければならない」と思い込んでしまうのも仕方ないでしょう。別のサイトには、次のようなマニュアルも。

「学生生活で力を入れたことは何ですか?」

模範となる回答:「私はテレホンアポインターのアルバイトを4年間続けました。アルバイトといえども、お客様との電話やりとりはすべて録音されており、 期間ごとに評価を受けるという管理体制でした。 お客様からの問い合わせ内容は、使用法に関する小さな疑問から激しいクレームまで様々で、 うまくお答えできず落ち込むこともありましたが、 お客様に満足していただくことが使命だと思い、どんな内容に対しても真摯に対応するように心がけました。 すると初めは怒鳴っていたお客様も、冷静に不満な点をお話しくださるようになり、 お客様の言葉の趣旨を正確につかむことができるようになりました。 その結果さらに落ち着いた対応ができるようになり、電話応対態度で一番の評価を頂けるまでになりました。この経験を通して、どんなお客様に対してもしっかり応対できる適応力を身につけることができました

学生生活で力を入れたことは何ですか?(模範となる回答)〜テレホンアポインターのアルバイト〜 - 面接の王道より引用)

…………長い!立て板に水をドバドバーーっと流すような回答です。実際の面接でこれだけ話していると、面接官の表情が暗くなっていくこと必至。伝える内容が最終的にこれくらいあったとしても、一度に「まくし立てる」のではなく、会話を通して徐々に明らかにしていけばいいだけなのに…。この手の「盛り込み過ぎ回答」を推奨するマニュアルが多いために、就活生も面接官も余計な苦労をしなければならないのです

面接では、相手が質問を続けやすい「隙」を残す

実際の面接では、それほど長く発言する必要はなかったように思います。たとえば「あなたは学業もけっこう頑張っていたようだけど、アルバイト経験なんかはありますか?」と聞かれたら、一呼吸おいて「はい、家庭教師を4年ほどしていました」などと答える。一度に全てを話さず、面接官が「次の質問」をしやすいような「隙」をのこすのが重要かと思われます

すると「家庭教師ね。教科は何を?」「はい、国語と英語です。中学受験も見ましたが、主に高校生を見ていました」「そうですか」など、普通の会話らしくなってくるのでした。

会話が成立し始めると、面接官が、だんだん「怖い大人」から「普通のサラリーマン」に見えてくるから不思議です。もちろん会話の中で、「うーん、ちょっと分かりづらいので、もっと具体的に説明してもらえますか?」などと冷静に突っ込まれることもあります。あれはけっこう焦ります。

就活生が一方的に自己アピールしてしまうのは、「就活初期に自己プレゼン型の集団面接を経験しすぎた結果」、そして何より「面接マニュアルの影響」だと思うのです。マニュアル型の自己アピールで何社受けても落ち続け、「自分にはコミュ力がない、もうダメだ……」と抑うつ状態になってしまう学生もいるかもしれません

当然ながら、最初から面接官と「会話のキャッチボール」ができる学生もいます。が、そこまで“あざとい“ のは一握り。みんな失敗しながら、もがいてもがいて内定をもらったり、もらえなかったりする。マニュアルの通りのプレゼン型自己アピールで落ちたとしても、それは「コミュ力不足」ではないのです

「最後はやっぱり、一緒に働きたいかどうか」

07年に「ほぼ日刊イトイ新聞」で連載されていた「ほぼ日」の就職論。人材紹介会社の社長、河野晴樹氏と糸井重里氏の対談で、次のようなやり取りがありました。

河野:「採用する側の意見として学生さんに考えてほしいのは、くりかえしになりますけど、本当に自分が大切にしてるものを振り返ってみましたか、ということ。これから面接に臨む学生さんたちには何にドキドキしたり、ワクワクしたりしたきたのか、もう1回きちんと考えてほしいですね」

糸井:「やっぱり、人って人がいちばん好きですから」

河野:「はい、人です。結局、そうなんですよね。この会社で、働きたいかどうか。この人と一緒に、働きたいかどうか」

糸井:「最後はやっぱり、そこなんでしょうね」

「ほぼ日」の就職論。より)

これが採用する側のホンネなのでしょう。面接官に「この学生と一緒に働きたい」と思わせるには、一方的に自分の長所をまくし立てる必要などない。会話の中で、「自分が大切にしてきたものや経験」を、ちょっとずつ伝えていけばよいという。

まぁ、その「自分が大切にしているもの」を探す作業は就活生自身がやらねばならないし、会話の仕方は、面接をこなす過程で慣れていくしかない部分もあります。なので「結局はコミュ力ってこと!?」という感じも、しなくはないですね…。

 

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*1:もちろん志望する業界によっては、この限りではありませんが

ドン・キホーテの電子マネー「majica」にみる、ドンキの本気

ドン・キホーテが好きで、よく行きます。モバイル会員にもなっており、クーポンで凄まじい安値のシャンプーを買ったりします(198円→98円に値引き等)。そのドンキが3月18日、ついに電子マネー「majica(マジカ)」を開始しました。

「majica」というネーミングセンスもさすがです。

Miracle  Amusement  Jonetsu(情熱)Intelligent  Card」の略だそう*1

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近年の電子マネー市場の成長は、飛ぶ鳥を落とす勢いです。07年頃から、EdyPASMOnanacoWAONなどが普及し始め、その後5年で発行枚数は3倍に(6000万枚→1億8000万枚)。

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日本銀行決済機構局「最近の電子マネーの動向について(2012 年)」p.2より引用

Edyなど先駆者たちに遅れること7年、ついにドン・キホーテが決断を下したようです。

1000円以上買った場合は10円未満が切り捨てに!

「majica(マジカ)」は1000円単位でチャージができ、1円につき1%のポイントがたまります。おまけに1000円以上の購入で10円単位が切り捨てに!つまり、マジカを提示して3,689円の買い物をした場合、9円マイナスの3,680円で良いんです。ちょっとお得な気分になりますよね。

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ドンキは店舗によって、レジ横に「足りない時にお使い下さい※ただし4円まで」などと書かれた箱に1円玉が沢山入れてあります。あのサービス、いかにもドンキらしくていいなぁと思っておりましたが、マジカを使えばその2倍以上もお得なんですね

10円未満切り捨ては「消費増税対策」

3月18日放送の「NHKニュースウオッチ9」によると、ドンキの電子マネーは「消費増税対策」の意味合いが強いそうです。番組ではマジカを使ったとみられるお客さんが、10円未満切り捨てのサービスについて「助かりますね、消費税も上がりますし…」とコメント。

同社のオペレーション本部統括部長は、

「他社の電子マネーにはない付加サービスを多数、ご用意させていただいておりますので、間違いなく競争には勝てると思います」

と自信を見せます。他社にはない「付加サービス」とは、一体何なのか?

1年に20万円使えばブロンズ会員、50万円でシルバー会員に

まずは「ランクアップ制度」です。ドン・キホーテグループでの年間購入金額によってランクがアップし、特典が受けられるというもの。

下記表によると、年間20万円以上のお買い物で「ブロンズ会員」に、50万円以上で「シルバー」、100万円以上で「ゴールド」にランクアップ。最上位は「プラチナ」ということですが、達成条件が「????」となっているのは、ドンキなりのユーモアでしょうね。

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そういえばドンキの会長、安田 隆夫氏は02年に小型店ピカソを出店した際、ネーミング理由を問われて「いや、深く考えていない」と発言しておられました。

――「いいんですか、そんな行き当たりばったりで(笑)」

安田社長(当時):「行き当たりばったり。柔軟な対応(笑)」

  (『欲望の仕掛け人』中村うさぎ日経BP社刊、04年、p.15)

今回も色々と、柔軟に対応してくれるのでしょう。

ブロンズ会員になると、雨天時にありがたいサービスが…

ドンキ愛好家としては、できればブロンズ会員くらいにはなってみたいものです。が、ドンキで年間20万円使うのって、けっこう難しいような気も…。自分は、1度のドンキで大袋2~3個分くらい買いますが、ドンキのシャンプーや洗剤、ドンキのトイレットペーパーや、ドンキの缶詰などをかなり買い込んでも、1度に4000円くらいしか使えません。「ブロンズ会員」になろうとして、1ヶ月に1万7000円以上も使えば「今月はけっこう散財しちゃったなぁ~、反省反省」となること必至です

では「ブロンズ会員」になると、どんな特典が受けられるのか。翌年のポイント還元率は1%で、通常会員と変わりありません。ところが、雨天時に傘が貸してもらえるのです(※ただし店舗で指定する傘となります)

「傘が貸してもらえるくらいでは満足できない!」ということで、年間50万円以上をドンキにつぎ込むと、ようやくシルバー会員に。1ヶ月に4万円以上使わなければならない計算です。ブランドの鞄やアクセサリーを、しこたま買い込めば何とかなるかもしれません。

シルバー会員になると、翌年のポイント還元率は2%にアップ。そして、雨天時に傘が貸してもらえます(※ただし店舗で指定する傘となります)あと、サンプル商品が貰えたり、店によっては貰えなかったりするそうです。

ゴールド会員になると使える「コンシェルジュフォン」とは

ではもうひと頑張り、1ヶ月に9万円をドンキで使い、年間100万円クラスの「ゴールド会員」になると…?翌年のポイント還元率は3%にアップ。雨天時の傘貸出はもちろん、サンプル商品がもらえるかもしれない(もらえないかもしれない)。さらにゴールド会員には「コンシェルジュフォン」なるものが貸し出されるのです。

説明しましょう。コンシェルジュフォンとは、「スタッフ直通のPHS」。忙しそうな店員さんに対し、遠慮しがちに「あの~浄水器ってどこですか…?」などと尋ねなくても、コンシェルジュフォンに話しかけるだけで店員が駆けつけてくれるという、なんともVIP待遇なシステムです。

100万円以上使って、駐車場が一部無料に

他にもゴールド会員になると、お買い物時の駐車場利用料が無料になるようです。まあドンキの駐車場は、無料または「90分まで無料」などが多いので、年間100万円も使って駐車場が無料ですよ!と言われても…という気はしますが。その他のサービス詳細については、HPでどうぞ。

ゴールド会員のさらに上、プラチナ会員も、こうしたサービスは受けられるようです。が、いかんせんプラチナ会員となるための条件が書いてない。このくらい雑な方が、遊び心があって良いのかもしれませんね。

「私自身が仕掛けを考えるというよりも、そのときどきのお客様のほうがけっこう先に進んでいるんですね。(中略)それこそ条件反射的な対応でいいんじゃないかと思いますけど。」

「理屈でやっちゃうと、それこそ(※引用者注:広告)代理店じゃないので。」

(同:ドンキはどこへ行くのか)実は私もよく分からない(笑)」

  (『欲望の仕掛け人』中村うさぎ日経BP社刊、04年、p.21-29)

良い意味で突っ込みどころ満載の「マジカ」。会長さえも「どこへ行くか、よく分からない」ドン・キホーテの真髄を見た気がします。

店員さんからは「majicaで会計、超めんどい」の声も

Yahoo!リアルタイム検索などをみると、消費者からは「マジカ買った~♪」「便利!」など喜びの声があるものの、若い店員さんからは不満もちらほら。

■majicaカードとか始めるからね、客は便利で楽しいけど、働く方は、めちゃくちゃ面倒くさいね。

■majica会計超めんどい

■店長が「majicaすすめろ」とかウザいので、反抗して1回も勧めてやらなかった

Yahoo!リアルタイム検索より、一部加工)

4月以降の同社業績に、マジカはどんな影響を与えるのか。次回ドンキに行った時には、私もマジカを作ろうか、迷っているところです。晴れてマジカユーザーになったあかつきには、使用感をお届けできればなと思っております。

【北条かやプロフィール】

86年、石川県金沢市生まれ。「BLOGOS」はじめ複数のメディアに、社会系・経済系の記事を寄稿する。同志社大学社会学部を出たのち、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。会社員を経て、14年2月、星海社新書より『キャバ嬢の社会学』刊行。

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スカイマークのミニスカ制服でCAの価値は上がるのか?

スカイマークCAの「ミニスカ制服」が話題になっています。「どうせネタだろう」と思っていましたが、どうやら本気のようです。

当然ながら、批判も噴出。「仕事に集中できず、保安上の問題がある」などの理由から、田村厚生労働相は同社の見解を問う考えを表明しました国交省も動き出しそうです*1*2

スカイマーク社:「うちの客室乗務員からは好評です」

3月20日に同社は、「A330 キャンペーン服に関するお知らせ」を発表。

A330キャンペーン服」はあくまでもキャンペーン用でありサイズも一定であるため着用に関しましては希望者に限定しております。当社客室乗務員においては好評であり希望者は順調に確保できました。 (「A330 キャンペーン服に関するお知らせ」より)

つまり、

(1)ミニスカはあくまで一時的な「キャンペーン用」だからOK

(2)希望者のみが着用し、会社の強制はない。当社CAにも好評だからOK

ということのようです。

 

(1)「キャンペーン」だからOK?

同社が批判を受けている理由の1つは、エアバスA330を広く世間に知ってもらう「キャンペーン」において、わざわざミニスカを採用したことです。ひざ上15センチにしたのは、その反響を見込んでのことでしょう。

乗客やマスメディアの性的関心を利用して、利益を出そうとする。そういう考え方を含めて、スカイマークは批判されているのです(※もちろんその批判の矛先は、なぜか絶対にスカート制服をやめない他の航空会社にも向きかねませんけどね)。ともあれ「一時的なキャンペーンだからミニもOK」という同社の主張は、何だかズレている気がします。

(2)希望者のみが着用するからOK?

希望したCAだけがミニスカを着るのだから別にいいでしょう、という主張も、問題にきちんと向き合っていない感じがします。だいたい「どこからが自発的な行為で、どこまでが強制か」なんて、誰にも分かりませんよね

「私、そのミニスカ着たいです!」と手を挙げたCAがいたとします。が、彼女は「新人の私が着ないと、上司から迷惑に思われるかもしれない…」と考え、無意識に手を挙げたのかもしれない。その選択が本心からか、それとも強制か?なんて、本人すら意識できないほど繊細な問題ですし、究極的には*3「どちらでもいいこと」です。

が、こうした微妙な「主体と強制のはざま」問題を、「希望者は順調に確保できました」(=本人たちがミニスカ喜んでるんだからいいでしょう!)で済ます同社の主張は、本質的な問題から目をそらしているように思えます。目をそらすことで、利益が上がるのですから、経済活動としては合理的なのかもしれませんが。

ミニスカ制服で、セクハラに遭った時の思考法

もし、自らミニスカを着たCAが、セクハラに遭遇したとしましょう。彼女は「こんな制服を選んだ自分が悪いのだ」と思い込んでしまう可能性もある。たとえ「自分は悪くない、制服に興奮して触ってくる客が悪いのだ」と思えたとしても、(ホックシールドが30数年前、デルタ航空のCAたちにインタビューして明らかにしたように)、客室乗務員はその性質上、セクハラ客に対しても笑顔で、個人的な動機から奉仕しているかのように振る舞わなければなりません*4

こうした職業上のリスクもあるので、ミニスカを希望したCAがいるからといって、直ちにそれを妥当なものとみなしてよいかは留保が必要でしょう。

業界下位の企業ほど、女性らしさで集客ねらう?

ホックシールドは『管理される心――感情が商品になるとき』(2000)で次のような客室乗務員のコメントを引用し、分析しています。

会社はキャビンの雰囲気を性的なものにしたいと思っているのです。どうしてかと言うと、男性客たちのほんとうの望みは<飛行の恐怖>から逃れることだと会社が考えているからです。(中略)乗客のほとんどは男性だし、大きな法人契約の相手はすべて男性なのですから」

(中略)

「経済的にぎりぎりの状態にある会社は、性的な度合いの照準をその市場で最も裕福な部分、つまり男性ビジネスマンに向けるようだ。ユナイテッド航空は1979年の総収入で1位にランクづけされたが、(※引用者注 広告では)女性職員の笑顔に対して何かを連想させるような言葉を付け加えてはいなかった。一方、10位にランクづけされたコンチネンタルや11位のナショナルは、確かにそれをやっていた」(同著p.108-9)

業界下位の企業が出す広告ほど、集客効果を見込んで「女のセクシュアリティ」を利用しがち…という、身も蓋もない結論です。女性客も増えた今、スカイマークのミニスカ戦略が100%そうであるとまでは言い切れませんが、これに近い思惑がないわけではないでしょう。

いずれにせよ、同社は広く社会の関心を集めるために「ひざ上15センチ」を採用しました。あのミニスカを目にした人々は、「CAたちの脚を見たい」といった「日頃から抱いてはいるが、表には出さない自分の欲望」を露骨に刺激され、侮辱されたような憤りや不安などを感じ、議論を巻き起こすこと必至だったからです。

個人的には、「露悪的なミニスカ戦略アッパレ!スカイマークさん、よくやった!」…などとは全く思えず、モヤッとした違和感を覚えているところです。

ミニスカを着る若い女性を、必要以上にちやほやしないで欲しい

最後に。丈の短いスカートでは業務に支障が出るのはもちろんですが、ただでさえ「若さ」や「CAならではの容姿」といった性的価値のある女性に、ミニスカまで履かせて、やたらと持ち上げるのは止めてほしいと思います。

彼女たちの「女性としての価値」は、「CA×若さ×ミニスカ」の組み合わせで、もう十分にインフレを起こしています。その分、落ちるときはドーーーっと一気に落ちていく。それこそ短いキャンペーン期間のように、ミニスカ服を着られるのは人生のひとときでしょう。

その貴重な時間を、ただキャンペーン要員としてミニスカ着てました、で終わらせるのは、人材活用戦略としてあまりに勿体ないのではないでしょうか

 

※余計なお世話でしょうけれど、ミニスカ制服の代替案を考えるのは難しいですね。パンツスーツにしたって、ヒップのラインがかえって女性らしさを際立たせ、一部乗客からのセクハラを助長してしまうおそれがあります。

苦肉の策ですが、もう、みんな「サルエルパンツ」でいいんじゃないでしょうか。真似したいサルエル女子まとめ 流行りのテーパードパンツもお洒落でいいですね。(美脚に見せる!テーパードパンツのすっきりコーディネート♪ )当のCAたちからも反論が出るかもしれませんが、それはそれで興味深いと思います

 

【北条かやプロフィール】

86年、石川県金沢市生まれ。「BLOGOS」はじめ複数のメディアに、社会系・経済系の記事を寄稿する。同志社大学社会学部を出たのち、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。会社員を経て、14年2月、星海社新書より『キャバ嬢の社会学』刊行。

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*1:超ミニスカ波紋、乗務員側は「仕事集中できず」 : 社会 : YOMIURI ONLINE

*2:強い逆風:スカイマークの「ミニスカCA」は“離陸”できるのか (2/3) - Business Media 誠

*3:あえてこのような表現を使いますが

*4:Hockschild. A. R 1983, “The Managed Heart: Commercialization of  Human Feeling”, University of California Press, (=石川准・室伏亜希訳,2000『管理される心――感情が商品になるとき』世界思想社.)

在宅ケアに必要な「患者の自己決定」と、「訪問看護師」にできること

高齢化社会を迎え、終末期のケアは病院から在宅の時代へ。そこで「地域医療」と「訪問看護師」の可能性を考えよう、というフォーラム「看護師が社会を変える」(笹川記念保健協力財団主催)を取材してきました。

団塊世代が一斉に75歳以上を迎える「2025年問題」

今から11年後、団塊世代が75歳を迎え、一斉に「後期高齢者」となります。いわゆる「2025年問題」です。75歳以上になると元気な人の割合がぐっと減り、病気ではなくとも「虚弱な」人の割合がどんどん増えていきます。

東京大学高齢社会総合研究機構の辻哲夫教授によると、十数年後には都市部を中心に病院はパンク状態になり、「このままでは確実に大混乱が起きる」といいます

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 (人口ピラミッドの図を見ながら解説する東京大学高齢社会総合研究機構の辻哲夫教授)

日本ではとにかく「困ったらまず病院」東京財団の研究員、三原岳氏によれば、イギリスやオランダでは、患者が総合病院へ行く前に相談に乗ってくれる「家庭医」がいます。この家庭医が9割の健康問題に対応。生活相談にも応じてくれて、患者のケアに関する自己決定を支えているのです。

日本に「家庭医」のような存在はいません。医療、介護がそれぞれ別個の体系にあるため、患者は制度の間を「たらい回し」にされ、自己決定権がないがしろにされる、という問題も起きているのです

「病院ではなく自宅で死を迎えたい」

日本では病院で死を迎える人が8割ですが、人生の終末期を「病院ではなく自宅で過ごしたい」という人は多いもの。そこで辻教授が千葉県柏市で実際に進めているのが「地域包括ケアシステム」です。

「在宅主治医」と呼ばれる地域の診療所の医師と、訪問看護ステーション、薬局、ケアマネージャーなどが連携し、地域のお年寄りを見守る。緊急時には病院も利用しつつ、できるだけ自宅で24時間対応の在宅医療サービスが受けられるようにします。

診療所の医師が1人で24時間対応するのは難しいので、優秀な「訪問看護師」がたくさん必要になります。看護師の勤務は2交代・3交代制が普通ですから、この仕組みを地域に持ってくるのは不可能ではないでしょう。

訪問看護師は、介護現場と医療現場をつなぐ役割も担います。多くのケアマネージャーは、医者に対して「壁」を感じている。「ケアマネが情報提供しても医師は活用してくれない」「介護ケアプランを変える際に、医師がなかなか来てくれない」といった声が多いのです。そこで「“医療現場と介護現場をつなぐ翻訳者”として看護師の存在が重要になってくる」(東京財団研究員の三原岳氏)

「地域医療」は、潜在看護師を活かす場になるか?

現在、資格をもちながら家庭の事情などで病院勤務をしていない「潜在看護師」は全国に55万人。地域に貢献でき、柔軟に働けるメリットがあれば、数十万人の潜在看護師たちが優秀な「訪問看護師」となってくれる可能性もゼロではありません。もちろん今の看護師たちが抱える「過酷な労働環境」の問題はクリアしなければなりませんが……。

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 (フォーラムの様子。現役の看護師や医療関係者も多数、出席していたようです)

求められるのは高い意識と専門性

在宅ケアに不可欠な「訪問看護師」。その育成は、家庭の介護負担を減らすためにも急務といえます。

日本に150万人いる看護師のうち、在宅の訪問看護師はたったの2%、3万人しかいません。スウェーデンでは20%が在宅看護師です」(日本訪問看護財団の清水嘉与子理事長)

日本では長らく、看護師といえば「医師のお手伝いさん」イメージでした。国が看護師の教育に熱心ではなく、40年前には血圧を測ることすら許されていなかったのです*1。が、在宅の患者を診る「訪問看護師」には、そんな古い「お手伝いさん」イメージを打ち破る可能性があるといいます。

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 (ディスカッションの様子)

訪問看護師の「経営スキル」どうやって身につける?

今、看護師を目指す学生の4割が大学生。その中には少なからず「訪問看護師を目指したい」という人も増えているとか。また、現在働いている訪問看護師の多くが「病院での勤務よりもやりがいがある」と語るようです。

やりがいはあれど、課題は「賃金」。「看護師の賃金を上げたいが経営が厳しくて、パートでしか雇えない」という訪問看護ステーションも多いのです。今後は経営スキルを身につけた、「起業家の訪問看護師」を育てることが必要だと、日本訪問看護財団の清水理事長は強調していました。

日本財団在宅看護センターでは今春から、そのような起業を目指す看護師の育成講座がスタートしますが、成果に期待したいところです。

成熟社会では「病院まかせ」から「自己決定」へ

75歳からの高齢期を、病院内で病人として過ごすのではなく、地域の中で「生活者として生ききる」。在宅ケアの実現には、“生き方”そして“死に方”に関する患者の自己決定を、地域が一丸となって支える仕組みが必要です。

とはいえ最も大切なのは、私たちのような普通の市民が「自己決定の重要性」に気付くことではないでしょうか。患者も家族も「病院へ任せておけば安心」という考え方のままでは、「患者の自己決定」に基づく在宅ケアを実現するのは難しい。地域医療の実現は同時に、「自己決定」を支える仕組みが整った「成熟社会の実現」を意味するのかもしれません。

 

【北条かやプロフィール】

86年、石川県金沢市生まれ。「BLOGOS」はじめ複数のメディアに、社会系・経済系の記事を寄稿する。同志社大学社会学部を出たのち、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。会社員を経て、14年2月、星海社新書より『キャバ嬢の社会学』刊行。

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*1:今国会では「保健師助産師看護師法」の改正が審議されており、看護師の権限が拡大される見込みが大きいそうです。