就活の面接、確かに「普通の会話するだけ」だったけど…
「就活生の大きな勘違い 面接は「自分を売り込む場」ではない」という記事を読みました。就活生は面接で「一方的に」自分の話をしがちだけれども、それは間違いである。面接とは「会話の場」。面接官は学生がきちんと「会話のキャッチボール」のできる人間かどうかを見ているというもの。
なぜ学生は「一方的な自己アピール」をしてしまうのか
記事には、次のような指摘があります。
面接とは、正しくは「会話をする場」です。会話を通じて、お互いが相手の人となりを把握しようとするのです。会話は、キャッチボールをすることで進むものです。どちらかが一方的に話すのは、もはや会話ではありません。
確かにその通りだと思います。が、こうした「会話」的な面接は、就活初期というより、選考が進んだ場合によく当てはまるものなんですよね。
一次面接は集団で行われることも多く、面接官がストップウォッチ片手に「右の人から1人あたり3分ずつ、自己アピールをして下さい」ということも多々あります。
学生は必死に「◯◯大学の××と申します。私の強みは協調性で…」と自己アピールをするのですが、途中で「ピピピピピ……」とタイムアウト。会場には、やや気まずい空気が流れ、「ありがとうございます。では、次の方どうぞ」。自己アピールを意識しすぎるあまり「私の強みは友達が100人いることです!」と胸を張って答える学生に面接官が苦笑い、なんて場面もありました…本当です。
はじめのうちは、こうした集団面接を経験する機会が多いのです*1。なので、学生が「面接=制限時間内に、自分がいかに優れているかをアピールする場」であると思ってしまうのも無理はありません。これを1対1の面接でもやって大コケ…という学生は多いと思われます。
「就活マニュアル」の罪
大学生協には、就活時期になると「Webテスト対策本」やら「受かるESマニュアル」やら、「面接必勝法」などの本が平積みになります。よくある面接マニュアルには「面接とは“自分を売り込む場”である」みたいなことが、たくさん書いてあります。
面接は、いかに自分が求める人物像に近いか、採用する価値があるかを見せる、いわば“自分を売り込む場”です。ただし、自分を売り込もうという気持ちが先に立って、自分目線の抽象的な長所だけを並べても相手には伝わりません。アルバイトやサークル活動など、自分が実際に経験した、具体的なエピソードを交えながら伝えましょう。
上記のマニュアルは、世界最大級の人材サービス会社、アデコによるもの。これを読んだ就活生が、「面接では『具体的なエピソード』を事細かに伝えなければならない」と思い込んでしまうのも仕方ないでしょう。別のサイトには、次のようなマニュアルも。
「学生生活で力を入れたことは何ですか?」
模範となる回答:「私はテレホンアポインターのアルバイトを4年間続けました。アルバイトといえども、お客様との電話やりとりはすべて録音されており、 期間ごとに評価を受けるという管理体制でした。 お客様からの問い合わせ内容は、使用法に関する小さな疑問から激しいクレームまで様々で、 うまくお答えできず落ち込むこともありましたが、 お客様に満足していただくことが使命だと思い、どんな内容に対しても真摯に対応するように心がけました。 すると初めは怒鳴っていたお客様も、冷静に不満な点をお話しくださるようになり、 お客様の言葉の趣旨を正確につかむことができるようになりました。 その結果さらに落ち着いた対応ができるようになり、電話応対態度で一番の評価を頂けるまでになりました。この経験を通して、どんなお客様に対してもしっかり応対できる適応力を身につけることができました」
…………長い!立て板に水をドバドバーーっと流すような回答です。実際の面接でこれだけ話していると、面接官の表情が暗くなっていくこと必至。伝える内容が最終的にこれくらいあったとしても、一度に「まくし立てる」のではなく、会話を通して徐々に明らかにしていけばいいだけなのに…。この手の「盛り込み過ぎ回答」を推奨するマニュアルが多いために、就活生も面接官も余計な苦労をしなければならないのです。
面接では、相手が質問を続けやすい「隙」を残す
実際の面接では、それほど長く発言する必要はなかったように思います。たとえば「あなたは学業もけっこう頑張っていたようだけど、アルバイト経験なんかはありますか?」と聞かれたら、一呼吸おいて「はい、家庭教師を4年ほどしていました」などと答える。一度に全てを話さず、面接官が「次の質問」をしやすいような「隙」をのこすのが重要かと思われます。
すると「家庭教師ね。教科は何を?」「はい、国語と英語です。中学受験も見ましたが、主に高校生を見ていました」「そうですか」など、普通の会話らしくなってくるのでした。
会話が成立し始めると、面接官が、だんだん「怖い大人」から「普通のサラリーマン」に見えてくるから不思議です。もちろん会話の中で、「うーん、ちょっと分かりづらいので、もっと具体的に説明してもらえますか?」などと冷静に突っ込まれることもあります。あれはけっこう焦ります。
就活生が一方的に自己アピールしてしまうのは、「就活初期に自己プレゼン型の集団面接を経験しすぎた結果」、そして何より「面接マニュアルの影響」だと思うのです。マニュアル型の自己アピールで何社受けても落ち続け、「自分にはコミュ力がない、もうダメだ……」と抑うつ状態になってしまう学生もいるかもしれません。
当然ながら、最初から面接官と「会話のキャッチボール」ができる学生もいます。が、そこまで“あざとい“ のは一握り。みんな失敗しながら、もがいてもがいて内定をもらったり、もらえなかったりする。マニュアルの通りのプレゼン型自己アピールで落ちたとしても、それは「コミュ力不足」ではないのです。
「最後はやっぱり、一緒に働きたいかどうか」
07年に「ほぼ日刊イトイ新聞」で連載されていた「ほぼ日」の就職論。人材紹介会社の社長、河野晴樹氏と糸井重里氏の対談で、次のようなやり取りがありました。
河野:「採用する側の意見として学生さんに考えてほしいのは、くりかえしになりますけど、本当に自分が大切にしてるものを振り返ってみましたか、ということ。これから面接に臨む学生さんたちには何にドキドキしたり、ワクワクしたりしたきたのか、もう1回きちんと考えてほしいですね」
糸井:「やっぱり、人って人がいちばん好きですから」
河野:「はい、人です。結局、そうなんですよね。この会社で、働きたいかどうか。この人と一緒に、働きたいかどうか」
糸井:「最後はやっぱり、そこなんでしょうね」
(「ほぼ日」の就職論。より)
これが採用する側のホンネなのでしょう。面接官に「この学生と一緒に働きたい」と思わせるには、一方的に自分の長所をまくし立てる必要などない。会話の中で、「自分が大切にしてきたものや経験」を、ちょっとずつ伝えていけばよいという。
まぁ、その「自分が大切にしているもの」を探す作業は就活生自身がやらねばならないし、会話の仕方は、面接をこなす過程で慣れていくしかない部分もあります。なので「結局はコミュ力ってこと!?」という感じも、しなくはないですね…。
【北条かやプロフィール】
86年、石川県金沢市生まれ。「BLOGOS」はじめ複数のメディアに、社会系・経済系の記事を寄稿する。同志社大学社会学部を出たのち、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。会社員を経て、14年2月、星海社新書より『キャバ嬢の社会学』刊行。
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*1:もちろん志望する業界によっては、この限りではありませんが