在宅ケアに必要な「患者の自己決定」と、「訪問看護師」にできること

高齢化社会を迎え、終末期のケアは病院から在宅の時代へ。そこで「地域医療」と「訪問看護師」の可能性を考えよう、というフォーラム「看護師が社会を変える」(笹川記念保健協力財団主催)を取材してきました。

団塊世代が一斉に75歳以上を迎える「2025年問題」

今から11年後、団塊世代が75歳を迎え、一斉に「後期高齢者」となります。いわゆる「2025年問題」です。75歳以上になると元気な人の割合がぐっと減り、病気ではなくとも「虚弱な」人の割合がどんどん増えていきます。

東京大学高齢社会総合研究機構の辻哲夫教授によると、十数年後には都市部を中心に病院はパンク状態になり、「このままでは確実に大混乱が起きる」といいます

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 (人口ピラミッドの図を見ながら解説する東京大学高齢社会総合研究機構の辻哲夫教授)

日本ではとにかく「困ったらまず病院」東京財団の研究員、三原岳氏によれば、イギリスやオランダでは、患者が総合病院へ行く前に相談に乗ってくれる「家庭医」がいます。この家庭医が9割の健康問題に対応。生活相談にも応じてくれて、患者のケアに関する自己決定を支えているのです。

日本に「家庭医」のような存在はいません。医療、介護がそれぞれ別個の体系にあるため、患者は制度の間を「たらい回し」にされ、自己決定権がないがしろにされる、という問題も起きているのです

「病院ではなく自宅で死を迎えたい」

日本では病院で死を迎える人が8割ですが、人生の終末期を「病院ではなく自宅で過ごしたい」という人は多いもの。そこで辻教授が千葉県柏市で実際に進めているのが「地域包括ケアシステム」です。

「在宅主治医」と呼ばれる地域の診療所の医師と、訪問看護ステーション、薬局、ケアマネージャーなどが連携し、地域のお年寄りを見守る。緊急時には病院も利用しつつ、できるだけ自宅で24時間対応の在宅医療サービスが受けられるようにします。

診療所の医師が1人で24時間対応するのは難しいので、優秀な「訪問看護師」がたくさん必要になります。看護師の勤務は2交代・3交代制が普通ですから、この仕組みを地域に持ってくるのは不可能ではないでしょう。

訪問看護師は、介護現場と医療現場をつなぐ役割も担います。多くのケアマネージャーは、医者に対して「壁」を感じている。「ケアマネが情報提供しても医師は活用してくれない」「介護ケアプランを変える際に、医師がなかなか来てくれない」といった声が多いのです。そこで「“医療現場と介護現場をつなぐ翻訳者”として看護師の存在が重要になってくる」(東京財団研究員の三原岳氏)

「地域医療」は、潜在看護師を活かす場になるか?

現在、資格をもちながら家庭の事情などで病院勤務をしていない「潜在看護師」は全国に55万人。地域に貢献でき、柔軟に働けるメリットがあれば、数十万人の潜在看護師たちが優秀な「訪問看護師」となってくれる可能性もゼロではありません。もちろん今の看護師たちが抱える「過酷な労働環境」の問題はクリアしなければなりませんが……。

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 (フォーラムの様子。現役の看護師や医療関係者も多数、出席していたようです)

求められるのは高い意識と専門性

在宅ケアに不可欠な「訪問看護師」。その育成は、家庭の介護負担を減らすためにも急務といえます。

日本に150万人いる看護師のうち、在宅の訪問看護師はたったの2%、3万人しかいません。スウェーデンでは20%が在宅看護師です」(日本訪問看護財団の清水嘉与子理事長)

日本では長らく、看護師といえば「医師のお手伝いさん」イメージでした。国が看護師の教育に熱心ではなく、40年前には血圧を測ることすら許されていなかったのです*1。が、在宅の患者を診る「訪問看護師」には、そんな古い「お手伝いさん」イメージを打ち破る可能性があるといいます。

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 (ディスカッションの様子)

訪問看護師の「経営スキル」どうやって身につける?

今、看護師を目指す学生の4割が大学生。その中には少なからず「訪問看護師を目指したい」という人も増えているとか。また、現在働いている訪問看護師の多くが「病院での勤務よりもやりがいがある」と語るようです。

やりがいはあれど、課題は「賃金」。「看護師の賃金を上げたいが経営が厳しくて、パートでしか雇えない」という訪問看護ステーションも多いのです。今後は経営スキルを身につけた、「起業家の訪問看護師」を育てることが必要だと、日本訪問看護財団の清水理事長は強調していました。

日本財団在宅看護センターでは今春から、そのような起業を目指す看護師の育成講座がスタートしますが、成果に期待したいところです。

成熟社会では「病院まかせ」から「自己決定」へ

75歳からの高齢期を、病院内で病人として過ごすのではなく、地域の中で「生活者として生ききる」。在宅ケアの実現には、“生き方”そして“死に方”に関する患者の自己決定を、地域が一丸となって支える仕組みが必要です。

とはいえ最も大切なのは、私たちのような普通の市民が「自己決定の重要性」に気付くことではないでしょうか。患者も家族も「病院へ任せておけば安心」という考え方のままでは、「患者の自己決定」に基づく在宅ケアを実現するのは難しい。地域医療の実現は同時に、「自己決定」を支える仕組みが整った「成熟社会の実現」を意味するのかもしれません。

 

【北条かやプロフィール】

86年、石川県金沢市生まれ。「BLOGOS」はじめ複数のメディアに、社会系・経済系の記事を寄稿する。同志社大学社会学部を出たのち、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。会社員を経て、14年2月、星海社新書より『キャバ嬢の社会学』刊行。

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*1:今国会では「保健師助産師看護師法」の改正が審議されており、看護師の権限が拡大される見込みが大きいそうです。