スカイマークのミニスカ制服でCAの価値は上がるのか?
スカイマークCAの「ミニスカ制服」が話題になっています。「どうせネタだろう」と思っていましたが、どうやら本気のようです。
当然ながら、批判も噴出。「仕事に集中できず、保安上の問題がある」などの理由から、田村厚生労働相は同社の見解を問う考えを表明しました。国交省も動き出しそうです*1*2。
スカイマーク社:「うちの客室乗務員からは好評です」
3月20日に同社は、「A330 キャンペーン服に関するお知らせ」を発表。
「A330キャンペーン服」はあくまでもキャンペーン用でありサイズも一定であるため着用に関しましては希望者に限定しております。当社客室乗務員においては好評であり希望者は順調に確保できました。 (「A330 キャンペーン服に関するお知らせ」より)
つまり、
(1)ミニスカはあくまで一時的な「キャンペーン用」だからOK
(2)希望者のみが着用し、会社の強制はない。当社CAにも好評だからOK
ということのようです。
(1)「キャンペーン」だからOK?
同社が批判を受けている理由の1つは、エアバスA330を広く世間に知ってもらう「キャンペーン」において、わざわざミニスカを採用したことです。ひざ上15センチにしたのは、その反響を見込んでのことでしょう。
乗客やマスメディアの性的関心を利用して、利益を出そうとする。そういう考え方を含めて、スカイマークは批判されているのです(※もちろんその批判の矛先は、なぜか絶対にスカート制服をやめない他の航空会社にも向きかねませんけどね)。ともあれ「一時的なキャンペーンだからミニもOK」という同社の主張は、何だかズレている気がします。
(2)希望者のみが着用するからOK?
希望したCAだけがミニスカを着るのだから別にいいでしょう、という主張も、問題にきちんと向き合っていない感じがします。だいたい「どこからが自発的な行為で、どこまでが強制か」なんて、誰にも分かりませんよね。
「私、そのミニスカ着たいです!」と手を挙げたCAがいたとします。が、彼女は「新人の私が着ないと、上司から迷惑に思われるかもしれない…」と考え、無意識に手を挙げたのかもしれない。その選択が本心からか、それとも強制か?なんて、本人すら意識できないほど繊細な問題ですし、究極的には*3「どちらでもいいこと」です。
が、こうした微妙な「主体と強制のはざま」問題を、「希望者は順調に確保できました」(=本人たちがミニスカ喜んでるんだからいいでしょう!)で済ます同社の主張は、本質的な問題から目をそらしているように思えます。目をそらすことで、利益が上がるのですから、経済活動としては合理的なのかもしれませんが。
ミニスカ制服で、セクハラに遭った時の思考法
もし、自らミニスカを着たCAが、セクハラに遭遇したとしましょう。彼女は「こんな制服を選んだ自分が悪いのだ」と思い込んでしまう可能性もある。たとえ「自分は悪くない、制服に興奮して触ってくる客が悪いのだ」と思えたとしても、(ホックシールドが30数年前、デルタ航空のCAたちにインタビューして明らかにしたように)、客室乗務員はその性質上、セクハラ客に対しても笑顔で、個人的な動機から奉仕しているかのように振る舞わなければなりません*4。
こうした職業上のリスクもあるので、ミニスカを希望したCAがいるからといって、直ちにそれを妥当なものとみなしてよいかは留保が必要でしょう。
業界下位の企業ほど、女性らしさで集客ねらう?
ホックシールドは『管理される心――感情が商品になるとき』(2000)で次のような客室乗務員のコメントを引用し、分析しています。
「会社はキャビンの雰囲気を性的なものにしたいと思っているのです。どうしてかと言うと、男性客たちのほんとうの望みは<飛行の恐怖>から逃れることだと会社が考えているからです。(中略)乗客のほとんどは男性だし、大きな法人契約の相手はすべて男性なのですから」
(中略)
「経済的にぎりぎりの状態にある会社は、性的な度合いの照準をその市場で最も裕福な部分、つまり男性ビジネスマンに向けるようだ。ユナイテッド航空は1979年の総収入で1位にランクづけされたが、(※引用者注 広告では)女性職員の笑顔に対して何かを連想させるような言葉を付け加えてはいなかった。一方、10位にランクづけされたコンチネンタルや11位のナショナルは、確かにそれをやっていた」(同著p.108-9)
業界下位の企業が出す広告ほど、集客効果を見込んで「女のセクシュアリティ」を利用しがち…という、身も蓋もない結論です。女性客も増えた今、スカイマークのミニスカ戦略が100%そうであるとまでは言い切れませんが、これに近い思惑がないわけではないでしょう。
いずれにせよ、同社は広く社会の関心を集めるために「ひざ上15センチ」を採用しました。あのミニスカを目にした人々は、「CAたちの脚を見たい」といった「日頃から抱いてはいるが、表には出さない自分の欲望」を露骨に刺激され、侮辱されたような憤りや不安などを感じ、議論を巻き起こすこと必至だったからです。
個人的には、「露悪的なミニスカ戦略アッパレ!スカイマークさん、よくやった!」…などとは全く思えず、モヤッとした違和感を覚えているところです。
ミニスカを着る若い女性を、必要以上にちやほやしないで欲しい
最後に。丈の短いスカートでは業務に支障が出るのはもちろんですが、ただでさえ「若さ」や「CAならではの容姿」といった性的価値のある女性に、ミニスカまで履かせて、やたらと持ち上げるのは止めてほしいと思います。
彼女たちの「女性としての価値」は、「CA×若さ×ミニスカ」の組み合わせで、もう十分にインフレを起こしています。その分、落ちるときはドーーーっと一気に落ちていく。それこそ短いキャンペーン期間のように、ミニスカ服を着られるのは人生のひとときでしょう。
その貴重な時間を、ただキャンペーン要員としてミニスカ着てました、で終わらせるのは、人材活用戦略としてあまりに勿体ないのではないでしょうか。
※余計なお世話でしょうけれど、ミニスカ制服の代替案を考えるのは難しいですね。パンツスーツにしたって、ヒップのラインがかえって女性らしさを際立たせ、一部乗客からのセクハラを助長してしまうおそれがあります。
苦肉の策ですが、もう、みんな「サルエルパンツ」でいいんじゃないでしょうか。(真似したいサルエル女子まとめ )流行りのテーパードパンツもお洒落でいいですね。(美脚に見せる!テーパードパンツのすっきりコーディネート♪ )当のCAたちからも反論が出るかもしれませんが、それはそれで興味深いと思います。
【北条かやプロフィール】
86年、石川県金沢市生まれ。「BLOGOS」はじめ複数のメディアに、社会系・経済系の記事を寄稿する。同志社大学社会学部を出たのち、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。会社員を経て、14年2月、星海社新書より『キャバ嬢の社会学』刊行。
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*1:超ミニスカ波紋、乗務員側は「仕事集中できず」 : 社会 : YOMIURI ONLINE
*2:強い逆風:スカイマークの「ミニスカCA」は“離陸”できるのか (2/3) - Business Media 誠
*3:あえてこのような表現を使いますが
*4:Hockschild. A. R 1983, “The Managed Heart: Commercialization of Human Feeling”, University of California Press, (=石川准・室伏亜希訳,2000『管理される心――感情が商品になるとき』世界思想社.)