1記事150円で書くライターと、媒体価値の上がらないWebメディア

「フリーライターでは食えない」という話は、ネットでもリアルでも、よく聞きます。(最近話題になったところでいえば、Web記事原稿料「一文字0.1円」ってマジすか……など)nanapiやネタりかをはじめ、メンジョイ、ハウコレ、Peachy、WooRisなどなど、ハウツー系のWebメディアが乱立する中、各媒体はできるだけ低コストで多くの記事を集めないといけません。ハウツーものなら、経験のあるライターさんに頼むより、「ライター募集サイト!未経験でも大歓迎!長期・安定的に仕事依頼可!」などを利用したほうが早いのかもしれません。が、報酬の低さには驚きました。

ライターの時給150円

「業界最高峰の報酬体系」をうたう、ある募集サイトを見ると、「ビギナーライター」の場合、600文字以上で150円、1200文字以上で300円、1800文字以上で450円となっています。え…その原稿料、安すぎ…!?  1800文字となると、私の場合、長くて3時間以上かかることもあります。時給にして「150円」。情報収集の時間や取材なども考えると、完全に赤字です。

また、あるサイトには【在宅】経済ニュース・経済用語をわかりやすく解説出来るライター様を募集中! とありますが、こちらは100文字55円~(1文字0.55円)税込からのスタート。1800文字だと990円です。ニュースメディアでは1000文字くらいの記事が多いので、だいたい500円で次のような記事を書いてくれということですね。「シャドーバンキングって何?/公定歩合ってよく聞くけどどういう意味?/サブプライムローン問題って実際どういうものだったの?」……かなりハードルが高いように思うのですが。下調べの時間を考えると、こちらがお金を払って記事を載せてもらう感じですね。何のコネクションもないけれど、とにかくWebメディアに名前を売りたい人を狙って募集をかけているのかもしれません(それで名前が売れるのかは分かりませんが)。それにしても安すぎると思うのは私だけでしょうか。

募集サイトには、「メールでのやり取りが雑な方、急に連絡が取れなくなる方、他サイトの文章をコピー・引用する方、仕事という意識が一切感じられない方とはお仕事が出来ませんので、お仕事を中止させていただく事もございます」とあります。しかし、何時間もかけて記事を書いてもワンコイン以下では、要領よくコピペするライターさんが出てきても仕方ありませんし、そもそも「仕事という意識」をもつことすら難しいのでは。

「ライターになりたい」だけでは買い叩かれる

乱立するWebメディアを見ていると、彼らはとにかく「ライターになりたい人」を求めているんだなぁと感じます。あるニュースサイトに関わる知人いわく、ライターになりたい人=ライターの供給は増えていると。で、なるだけ安く、彼らの夢を買い叩くのがWebメディアの仕事……とまでは言いませんが、世知辛い世の中だなと。

雨宮まみさんは『女子をこじらせて』(ポット出版、2011年)の中で、「ライターになるのに資格はいりません。自分で『ライター』と刷った名詞を作るだけです。それで仕事をもらえば名実ともにライターになれる。まるでインチキのようですが、私はそうしてライターになりました」と書いておられます(p.144)。確かにそうです*1

今や、1記事150円の記事を書くだけでも「ライター」です。仕事も、選ばなければ沢山ある。「パソコンひとつで誰でもライターに!」とのたまう、こんなウェブサイト(↓)を見ると、ライターデフレの時代を痛感します。

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新興メディアの媒体価値が上がらない「負のループ」

新興Webメディアもまた、媒体の「広告収入」だけで社員を食べさせていくのは至難の業です。メディアの性質上、広告単価が安くて儲かりづらいからです。そんな新興メディアが、自社のみに書かせるライターを多数抱えるのは、不可能に近い。だから「初心者歓迎!」で、夢追い型、もしくは副業・兼業のWebライターを集めまくるわけです。ライターへの参入障壁が低くなり、ライターになりたい人が増えていると仮定すると、発注単価が安くても人は集まります。

媒体価値が低い(新興メディアだから)→1文字0.5円でライターに納品させる→ライターの質が低いから、記事の質も低い(とレッテルを貼られる)→媒体価値が上がらない→広告単価がアップせず、収益も上がらない→もっと安く記事を仕入れたい→1文字0.1円でライターに納品させる→記事の質が上がらない→媒体価値も上がらない……こういうループがあるわけですね。

これまで、いわゆる新興メディアを運営する方々と何度かお会いしましたが、広告収入をアップさせるために、媒体価値を上げようと苦労されている様子が伝わってきました。でも、記事やライターにお金はかけられない。難しいですね。

※企業の皆様におかれましては、気に入った新興メディアに「テレビCM1回分」くらいの広告費を投入してみるのもありではないでしょうか。面白い媒体に成長するかもしれませんよ……あ、でもそれだと、記事がスポンサー寄りになってしまうリスクもありますね。結局、無限ループかもしれません。

【北条かやプロフィール】

86年、石川県金沢市生まれ。「BLOGOS」はじめ複数のメディアに、社会系・経済系の記事を寄稿する。同志社大学社会学部を出たのち、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。会社員を経て、14年2月、星海社新書より『キャバ嬢の社会学』刊行。

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*1:雨宮さんがライターになられた頃は紙媒体が中心だったと思いますので、今よりも記事の単価は相当、高かったと想像しますが。