『小悪魔ageha』のDNAはギャルの垣根をこえて、新雑誌『LARME』に受け継がれていた

小悪魔ageha』の版元、インフォレスト社が倒産しました。キャバ嬢ファッションのみならず、ロリータやガーリー系、パンクファッションまでを包括し、広くギャルカルチャーを牽引してきた『ageha』。しばらくは休刊になるかもしれません。

しかし!『ageha』の中條元編集長が築いたギャルカルチャーの礎は、しっかりと次の世代に受け継がれていたのです徳間書店から出ている『LARME』。同誌の編集長は、全盛期のageha編集部にいたことで知られています。

ギャルでもないモテでもない『LARME』

同誌は全体的にパステルカラーで、ギャルでもないモテでもない、甘くて「ふわっ」とした感じの、写真集のような構成。モデルには乃木坂46白石麻衣、元『popteen』の菅野結以、そして元『小悪魔ageha』の黒瀧まりあなどを起用しています。モデルの布陣から見ても、同誌はギャルやモテといった固定の価値観をもっていないことが分かります。

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「新しい雑誌が出てきたなぁ」と思っておりましたが、実はこの雑誌の編集長、中郡暖菜(なかごおり・はるな)さんは長らく『小悪魔ageha』で、創刊時の中條編集長のもと、編集にたずさわっていたのでした。

中郡編集長:インフォレストという出版社におりまして、そこで5年間編集部員として女性誌に関わってきました。その頃の編集長(※引用者注:これは創刊した中條寿子元編集長ですね)には、好きなことをなんでもやらせてもらっていて、今の「LARME」に通じるような、絵本っぽいストーリー性のある企画を楽しんで作っていました」

「それが実際読者の方々から評判がよくて、モデルの女の子たちからも喜んでもらえたんですね。昔から編集者になるのが夢だったこともあり、1冊の本を作りたいなと。私の得意分野が「甘くてかわいい」というものだったので、それで勝負をしたという感じです。

ファッション誌「LARME」即日完売・重版で定期化決定 美人編集長が躍進の理由を語る<インタビュー>より引用)

そういえば、時々ありました。昔のagehaにはこういう物語性のある企画……*1。試みに09~10年頃の『小悪魔ageha』を見ると、最後のページにある編集者一覧に、“Haruna_Nakagori”のクレジットが。ほんとうに、全盛期のagehaにいらしたんですね。

『LARME』編集長の経歴

中郡(なかごおり)編集長は、86年2月10日生まれの27歳。以下、略歴の「→」は北条の勝手なコメントです。

■2006年12月、インフォレスト株式会社の旗艦女性誌にて編集アルバイトを始める(20歳)

小悪魔agehaのことですね。06年といえば、agehaの創世記。

■2008年3月、大学卒業と同時に同誌の編集部員として就職

agehaが30万部の大ブームになりつつあった頃です。

■2011年夏、「LARME」の構想を始め社内でプレゼン等を進める 

→この1年前にはagehaの版元がカラーズインターナショナルに買収され、「儲かる雑誌を作れ」ムードが高まっていたと思われます。創刊時からの中條元編集長も、退職を考え始めていたと推察される。売れるかわからぬ新雑誌が、受け入れられる雰囲気だったのでしょうか…?

■2011年12月、インフォレスト株式会社での「LARME」の刊行が困難となり、退社

→やはりというべきか、中條編集長が「編集のアイデンティティを奪われた」と退社したのとほぼ、同じタイミングで彼女も退社しています。

■2012年4月、「LARME」刊行に関心を示した徳間書店にてフリーランスとして活動開始、同年9月、「LARME」001発刊(26歳)

ファッション誌「LARME」即日完売・重版で定期化決定 美人編集長が躍進の理由を語る<インタビュー>より引用) 

小悪魔ageha編集部にいた若き女性が、こうして新たなギャルカルチャー(とあえて呼びます)を発信し、女の子たちに受け入れられている。彼女が新雑誌『LARME』の構想をインフォレスト社内でプレゼンしていた11年は、会社が買収されて上層部が変わり、役員らが「おまけの付録をつけてタイアップを増やせ」との大合唱だったと想像します。そんな11年頃のagehaに見切りをつけ、中條元編集長と同じタイミングで退社した、彼女。

その後、彼女が構想した『LARME』は、徳間書店で花開いたというわけです。同誌には、中條元編集長も嫌っていた「おまけ」はいっさい付いていません。それでも即日完売、重版を重ねてきたのですから、コンテンツの力で勝負できているということでしょう。

編集長の「自分」が全面に出た雑誌が受ける

agehaの中條元編集長は、「読みたい雑誌がないなら、自分が作ろう!」と『小悪魔ageha』を創刊しました。彼女のもとで働いていた『LARME』編集長の中郡さんもまた、「自分の中で今一番かわいいと思うものをテーマに」雑誌を作っていると言います。編集長の「私が好きなもの」が誌面からにじみ出てくるような、ある種、強烈な思いが反映された雑誌の方が、若い読者にとって魅了的に映るのでしょう。

一方、「黒髪女子がモテる」とか「春のキャンパスメイクバイブル」などという、十年一日の特集を繰り返すばかりの『Canca◯』や『R◯y』など「赤文字系雑誌」は、部数減を強いられている*2。なんだか象徴的ではありませんか……『ageha』の中條元編集長のDNAを受け継ぐ(と勝手に私が思っている)『LARME』、これからも注目しております。

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【北条かやプロフィール】

86年、石川県金沢市生まれ。「BLOGOS」はじめ複数のメディアに、社会系・経済系の記事を寄稿する。同志社大学社会学部を出たのち、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。会社員を経て、14年2月、星海社新書より『キャバ嬢の社会学』刊行。

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*1:今も時々ありますが

*2:まぁ、小学館主婦の友社など、版元が大きければ休刊にはならないと思いますが…それにこうした赤文字系には、減りつつあるとはいえ一定の読者が未だにいるわけですしね。一概には比べられないともいえます。