大島優子(25)の卒業と安室・あゆ・宇多田の25才

AKBの大島優子さん(25)が、6月2日の劇場公演をもって同グループを「卒業」しますね*1。30日には国立競技場で予定されていた卒業セレモニーが荒天のため中止となり、ファンの前で謝る大島優子の姿が芸能ニュースで取り上げられました*2

25才というのは女性にとって、転機の年です「お肌の曲がり角」なんて使い古された表現もありますが、新卒で就職したなら「3年目OL」。『Cancam』では「1年目OL」に対して、もうキャピキャピしてらんねぇぞ!的な立場の役どころです。

新人の指導を任されることもあるでしょう。仕事にも慣れ、ルーチンワークをこなす毎日。「本当にこの会社に勤め続けるの?そろそろ結婚も意識した方がいいのかな?」なんて悩みも出てきます。

実際、女性が転職を考え始める年齢は男性より数年早く、24~25才なんだとか*325才の国民的アイドル・大島優子さんにも色んな思いがあったことでしょう。

かつて一世を風靡した歌手たちもまた、「25才」で何らかの転機を迎えていました。安室奈美恵浜崎あゆみ宇多田ヒカル彼女たち3名の来歴をたどり、大島優子と比べてみると*4大島優子がなぜこれだけ多くの支持を集めるのかが分かるのです。

もはや伝説?安室奈美恵の「25才」はSAMからの卒業

90年代半ばにコギャル、アムラー現象を巻き起こし、現在も女子のカリスマで居続ける安室奈美恵(36)。「彼女を表紙にすれば、女性誌は売れる」とも言われます。アラフォーにしてなお、若い女性たちの憧れである彼女。デビューしたのは15才の時でした。

小室哲哉プロデュースのもと、10代でミリオンヒットを連発19才で史上最年少のレコード大賞に輝きます。20才でダンサーのSAMと電撃結婚&妊娠を発表*5。「CAN YOU CELEBRATE?」で、2度目のレコ大を受賞します。紅白歌合戦では20才の若さでトリをつとめました。

しかし育休復帰後は、かつての輝きを少しだけ、失っているかのように見えた安室奈美恵。22才の頃には、母親が殺害されるという悲劇にも見舞われます。その後は、人気にも陰りが。

そんな彼女は、24才で小室哲哉のプロデュースを離脱。ヒップホップやR&B調の曲へとシフトします。ZEEBRAなどとのグループ活動をスタートさせ、自らの新境地を開拓していったのです。

彼女は「25才」で、夫のSAMと離婚しました安室奈美恵の25才は、夫と別れ、「Queen  of  Hip-Pop」*6となっていく転機の年だったのです。離婚後、安室奈美恵は両腕に、亡き母親への愛を誓ったタトゥーを入れたそうです。

いやはや、ここまでめまぐるしい25才までの人生を他に知りません……10代で国民現象を起こし、数々の記録を塗り替え、妊娠、結婚、出産、母の死、そして離婚、再びダンスと歌の新境地を希求し、歌姫の座へと返り咲いた25才でした。

浜崎あゆみの「25才」はレコ大「3年連続受賞」の最後の年

安室奈美恵の1つ年下の浜崎あゆみ(35)。彼女が、子役やモデル活動を経て歌手デビューしたのは20才の時です。CMや雑誌に登場するたびに「あの可愛い子は誰!?」と大人気に。歌詞の世界観や独特のトークなども受け、「あゆ」は女子高生のカリスマとなりました。

00年代前半は、女子という女子が「あゆ」の曲を着メロにし、メイクやファッションを真似していた。一人称が「僕」で始まる彼女の曲は、ギャルのみならずメンヘラ系女子までを魅了し、ケータイ小説の文体にも影響を与えます*7長瀬智也との堂々たる交際も、多くの女子にとっては憧れでした。

そんな彼女が「25才」を迎えたのは2003年。レコード大賞3連覇の、最後の年でした。ここが彼女の転機だったかもしれません。翌年には総合司会を務めていた番組『ayu ready?』が終了。この頃からCM等の多くを降板しているようです。でも、前しか向かねぇ。プロモーションビデオに凝り始めるなど、自己プロデュースに力を入れて行きます。

ごく最近では熱愛報道ばかり話題になる浜崎あゆみですが、デビューから25才までは、まさに「美とファッションのアイコン」でした。安室奈美恵と同様、ギャルカルチャーを形作ったのは間違いないでしょう。

 16才でアルバム800万枚を売った宇多田ヒカルの「25才」

最後は、あゆの5つ下で83年生まれのシンガーソングライター、宇多田ヒカル(31)です。彼女の歴史は98年、弱冠15才でデビューシングル「Automatic」がいきなり、ミリオンセラーとなったところから始まります。ソファに座って気だるそうに体を揺らして歌う彼女の、ミステリアスな魅力(※そして母・藤圭子の存在)に、日本中が夢中になりました。

16才の時にはアルバム『First Love』が800万枚(!)の大ヒットとなり、日本史上記録に。19才で映画監督と結婚。21才で全米デビュー*8

24才のとき、彼女は離婚を発表します。このときすでに、日本を代表するシンガーソングライターの地位を手に入れ、海外進出を果たし、結婚と離婚まで経験している宇多田なのでした。 

彼女が「25才」を迎えたのは、離婚後の2008年。周りはうるさいけど、前しか向かねぇ、という感じで20作目のシングル「HEART STATION」は、自身の最高オンエア記録を更新。そのわずか2年後、27才で「人間活動」に専念するため活動を休止します。

デビューから12年、日本の音楽史を鮮やかに塗り替えていった彼女は、「普通の女の子に戻りた」かったのでしょうか。いや、絶対に叶うことのない「普通の女の子」をやってみたかったのかもしれません。まったく普通じゃないから、ここまで名を残す存在になってるのだと思いますが。

安室と宇多田、あゆのカリスマ性はどこから来るのか

こうして3名の人生を振り返ってみると、それぞれデビューから25才までの数年間に、並外れた経験を積んでいることが分かります。それゆに彼女たちは、25才の時点で異様に成熟していた。25にして既に、人生の酸いも甘いも噛み分けたかのような「貫禄」があったのです。悪く言えば、安室も宇多田もあゆも、年相応以上に老けていた

安室や宇多田は、天賦の才と、その後のすさまじい「努力」(を努力と感じさせないほどの並外れた能力)により、カリスマ性を獲得しました。浜崎あゆみは「居場所がなかった…」と、自らのトラウマを歌って女子の心を掴んだ。まるで「涙を流すサイボーグ」のような存在だった彼女もまた、特殊なカリスマ性を帯びていました。

そして3者はそれぞれ、25才以降は少しずつ、勢いを失っていったようにも見えます。若くしてスターとなり、色んな人が群がってくる中で「大人の事情」を知りすぎたせいもあるでしょう。安室も宇多田もあゆも、どことなく斜に構えた感じの「25才」でした。デビューから数年のあいだに燦然と輝きすぎたからこそ、陰もできるのでしょう。 そこで同じく25才の国民的アイドル、大島優子に思いを馳せるのです

大島優子は「凡庸さ」を突き詰めた結果「非凡人」になった

見てきた3名の大物歌手と比べると大島優子はまるで凡庸です。失礼ながら、安室奈美恵らのようなカリスマ性は持ちあわせていない。彼女はAKBの中では最長の芸歴を誇るにもかかわらず、長いあいだ芽が出ませんでした*9

AKBに加入したのは18才になる年ですおニャン子クラブのメンバーたちが軒並み17~20才あたりで解散&卒業したのを思い起こすまでもなく、大島優子はアイドルグループに新規加入するにあたり、決して「若くはなかった」。

カリスマ性もなく、アイドルグループの中では若くもなかった大島優子は、ただただ凡庸な「会いにいけるアイドル」の道を突き詰めました。その結果、彼女は25才の今もまだ、誰もが知る国民的アイドルで居続けている。ちょっとおかしな表現ですが、彼女にはカリスマ性がないからこそ、かえってカリスマ性を感じさせるような、そんな雰囲気があります

大島優子は昨年、情熱大陸に出演した際、次のような発言をしたそうです。

――「 同じように努力したら誰でも大島優子になれますか? 」

大島優子:「なれますね。ただし、 同じ努力は簡単にはできないと思うけど。」 

大島優子が、情熱大陸でついたウソ - ジセダイより引用)

「努力」……安室や宇多田、あゆだったら絶対に言わないし、取材する側も聞かないテーマでしょう。天賦の才に恵まれたカリスマ歌手に、そんなことを尋ねるのは野暮というもの。

安室奈美恵が10代の頃に放送されたドキュメンタリーを見ましたが、彼女はインタビューの中で*10、「努力」という言葉を使っていなかった。むしろ、ただダンスと歌が大好きで、私はそれを追求しているだけ…という印象を受けました。

安室のようなタイプのカリスマには、大島優子の言う「努力」を重ねただけでは、なれないのです。むしろ「努力」という語彙を持たないのが、安室や宇多田のカリスマたる所以でしょう

だからこそ、「他人には簡単にできないほどの努力をしてきましたよ」なんてサラっと言ってのける“国民的アイドル”、 大島優子は特殊なのです。彼女が努力をするのは、良い意味でみずからの凡庸さを理解しているからです。

だがその凡庸さを突き詰めて、結果的に非凡な存在になっている。カリスマとはいえないかもしれないが、なぜかカリスマ性を感じさせる。多くの人が、大島優子に何となく注目してしまう理由はここにあります。

彼女は、3月23日に幕張メッセで行われた「大島優子感謝祭」において、1人で6000人との握手をこなしたといいます。凡庸な「会いにいけるアイドル」を突き詰めた「国民的アイドル」の姿を象徴するようなエピソードだと思いました。

会場には特設の「大島優子ミュージアム」が作られ、デビュー時からの衣装115着をはじめ、歴史をたどる年表や写真など数百点が展示されたそうです。4月12日放送予定のめちゃイケ」では、大島優子卒業2時間半スペシャルが組まれるとか*11。卒業後の映画出演もすでに決定しています

メディアから支持され、多くのファンから愛される彼女。卒業を発表した紅白歌合戦の後は、同じタイミングで紅白から卒業する予定だった北島三郎の「お株を奪った」との批判が大量に寄せられたりもしました。Yahoo!ニュースのコメント欄は北島三郎ファンというより、彼女のアンチであふれていた。それほどに皆、大島優子の一挙手一投足に無関心ではいられないのか…と思ったほどです。

大島優子はAKB卒業後も、芸能界で生き残ってゆくでしょう。その理由は、彼女がみずからの凡庸さを、普通の人の何百倍も理解しているという非凡さ、にあるのではないかと思う次第です

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【北条かやプロフィール】

86年、石川県金沢市生まれ。「BLOGOS」はじめ複数のメディアに、社会系・経済系の記事を寄稿する。同志社大学社会学部を出たのち、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。会社員を経て、14年2月、星海社新書より『キャバ嬢の社会学』刊行。

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*1:AKB大島の卒業公演は6・2秋葉原 チームKでの最終公演で発表:デイリースポーツ

*2:AKB国立荒天延期 大島優子6・2卒業公演に影響も - 芸能 - ZAKZAK

*3:みんなは何歳で転職を考え始める? |転職ならDODA(デューダ)より。

*4:個人的にいずれも特にファンというわけではないため、Wikipediaと個人的な記憶をもとにした記述になりますが、ご容赦下さい。

*5:彼女の「デキ婚」によって少子化が改善されるかもしれないぞ、なんて大マジメに語る大人たちもいましたね。

*6:05年発売のアルバムタイトル。

*7:速水健朗ケータイ小説的。』など参照。

*8:宇多田ヒカルの全米デビューは不発だったとも言われているようですが

*9:卒業・大島優子、前田敦子とのセンター争い、卒業電撃発表…これまでの軌跡を振り返る - モデルプレス

*10:私の記憶にある限りでは

*11:AKB48タイムズ :4月12日「めちゃイケ」で大島優子AKB卒業2時間半SP放送決定!