オバマ大統領の「ほめて隠す」演説テクニック

アメリカの大統領としては18年ぶりに「国賓」として訪日した、オバマ大統領。彼が24日、宮中晩餐会でおこなった挨拶が「素晴らしい」と絶賛されているので、全文を見てみました。(あいさつ全文はこちら

天皇、皇后両陛下、本日は私ども一行を格別に温かく歓迎していただき、ありがとうございます。

から始まるスピーチは、日米関係について色々と示唆に富んでいるように思います。先の震災から立ち直った国民性など、とにかく日本を絶賛。米国大統領の演説の特徴としては「国民をほめちぎり、一体感を演出する」というのがありますが、オバマ大統領は本当に「褒める」のが上手だなぁと思います。

天皇、皇后両陛下に対するあいさつなので当然かもしれませんが、日本の皇室への賛辞もスマートに盛り込まれています。

私は第44代アメリカ合衆国大統領ですが、陛下は日本の125代目の天皇陛下です。日本の皇室は2000年以上の長きにわたり、日本人の精神を体現してきました。今夜、その精神を、陛下の平和への思いの中に感じることができます。またこれまでの困難な日々や、3年前の東日本大震災の悲劇にもかかわらず、その強さと規律正しさと高潔さで世界の人々に影響を与え続けている日本国民の立ち直る力の中にも感じられます。

このあたり、日米の歴史が面白い形で対比されているように思います。オバマ大統領は、米国の大統領制と日本の天皇制を単純比較しているようにみえますが、もちろん、ことはそれほど単純ではないわけで……。

周知のように、日本国民を戦争へと駆り立てた「イデオロギーとしての天皇制」は、敗戦によっていったん「象徴天皇制」へと "格下げ" されている。そのとき日本人は、神としての天皇、信じる対象を失ったのです。失われた「天皇」の位置に取って代わったのが「アメリカ」でした。

アメリカが、神としての「天皇」に代わって君臨したからこそ、多くの日本人はイデオロギー的な危機に陥ることなく、スムーズに高度成長へと入っていけた。象徴天皇制の背景には、そういうアメリカの存在感と思惑があるわけですが、これを明言せず、日本の皇室の「伝統」を尊重しているようにみせる。オバマ大統領は上手いなぁ、巧みだなぁと思いました

あいさつの後半には、オバマ大統領の演説でよく見られるという「言葉の繰り返し」が効果的に使われています(参照:オバマ大統領に学ぶ演説テクニック)。

日米両国民は、太平洋という広大な海を挟んでいますが、日々あらゆる分野で協力しています。私たちは共に創造し、つくり上げることにより、世界を変える新たなイノベーションを生み出します。共に学び研究して、病気を治療し命を救う新たな発見をします。平和を維持し、空腹の人々に食べ物を提供するため、共に世界の果てまで出かけます。宇宙の神秘を理解するため、共に宇宙にも行きます。日本人選手が大リーグのチームの勝利に貢献した時のような喜びの時にも、3年前のようなつらい時にも、私たちは共にいます。

なるほど、「共に◯◯する」を繰り返すことで、日米の一体感を醸し出すことに成功しています。共に学び研究し、イノベーションを生み出し、最終的には日本とアメリカで「共に世界の果てまで」出かけるというからすごい。さらに地球を飛び出し「共に宇宙にも」行ってしまう。スケールが違います。日米間にある太平洋という大きな海の隔たり(や、外交をめぐる摩擦)も、宇宙の巨大な存在感を前にしては、小さなものに感じられる。なんだか、いつの間にか納得させられています…

オバマ氏が08年に米国の大統領となったとき、彼のスピーチ術は大変な話題になりました。08年11月4日の勝利演説は英語の教材として売りに出され、「ケネディを超えた」などと賞賛されたものです。そんな6年前を思い出す宮中晩餐会でのあいさつでした。次の韓国、マレーシア、フィリピンでの演説も、ちょっと楽しみです。

生声CD付き [対訳] オバマ演説集

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 【北条かやプロフィール】

86年、石川県金沢市生まれ。「BLOGOS」はじめ複数のメディアに、社会系・経済系の記事を寄稿する。同志社大学社会学部を出たのち、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。

星海社新書「キャバ嬢の社会学」より引用

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