『小悪魔ageha』の版元が倒産へ、全盛期から何が変わったのか
『小悪魔ageha』のインフォレストパブリッシングの親会社、インフォレスト社が、事実上の倒産となりましたね。数社が報じていますが、ソースはほぼこちら。
雑誌「小悪魔ageha」など出版 インフォレスト株式会社 4月15日付で事業停止 負債30億円(大型倒産速報 | 帝国データバンク)
中小の出版社では、親会社がコロコロ変わったり、出版部門が売却されたり、といったことは珍しくありません。それでも業績が改善せず、倒産、コンテンツだけ売却、……インフォレスト社の件も、巨視的な観点からみればまあ、中小出版社の「いち末路」なのでしょう。それにしても、さびしい。GIGAZINEでは当ブログの記事を引用し、『小悪魔ageha』の衰退について報じております*1。
■中條編集長が去った『小悪魔ageha』に付録がついてもはや宝島社ですかと
「agehaショップ」が昨年末で閉鎖されていた
実は昨年末、agehaの通販部門である「小悪魔agehaショップ」が、ひっそりと閉鎖されておりました。(小悪魔agehaSHOP リニューアルに伴い一旦終了のお知らせ)
この度、agehaショップはリニューアルすと事となり12月25日(水)22:00をもちまして一旦、サービスを終了する事となりました。多くのお客様にご利用いただきましたこと、心より感謝申し上げます。2014年夏にリニューアルを予定しております!リニューアルオープンの際は、メルマガ&本誌面にてお知らせいたします♥(原文ママ)
とのことですが、13年末に閉鎖してから、リニューアルまで半年以上!?通販部門はそれなりの "ドル箱" なんだから、普通はもう少し早く再開するはずでは…と、心配になったもの。経営陣はどのような思惑でagehaショップを閉鎖したのか分かりませんが、現場社員は「14年夏にリニューアル」としか知らされていなかった可能性もあります。
そういえば『ageha』の中條元編集長は以前、中小出版社の社員は「残念ながら、世間の人が想像する以上にゴミのような扱い」と言っていました。カリスマ編集長ともいわれた彼女の発言から、agehaの変化をたどってみたいと思います。
小悪魔agehaの誕生前夜
『ageha』元編集長の中條寿子氏が、当初、在籍していたのは「英知出版」という中小出版社。英知出版は、01年にゼィープラス株式会社(現セブンシーズホールディングス株式会社)に全株式を取得され、完全子会社となります。
「私がいた出版社は10年前に、入社してまもなく金融屋さんに買収されました」(『週刊金曜日』2011.11.11号 中條寿子エッセイ「太陽が見えない私たちに届く光を探す物語」より引用)
02年、その「金融屋さん」=セブンシーズホールディングス傘下として、インフォレスト株式会社が設立。中條元編集長は、英知出版からインフォレスト社の社員になったわけです*2。
「私は読者のために雑誌を作っているのであって、口をきいたことがない親会社の役員のためではありません」
「大手のように給料もよく、予算に恵まれ、働く環境も整っていれば『会社の役員のために頑張ろう!』なんて気も奇跡的におこるかもしれませんが、残念ながら世間の人が想像する以上にゴミのような扱いです。(経営層は※引用者注)何も与えずに何かを搾りとろうという…」(同上)
おじさんたちのドロドロを目の当たりにしながらも、彼女は「夜のお仕事をしている女の子が、同じ境遇で働いている全国の女の子たちのファッションを参考にできるような雑誌を作ろう!」との思いを固めていきます。
「自分たちのための雑誌」、『小悪魔ageha』を創刊
05年、中條元編集長は「自分たちのための雑誌」として『小悪魔ageha』を創刊*3。これが大ヒットし、08年には「age嬢」ブームが到来、発行部数は30万部になりました。金髪で盛り髪、露出の多いギャル風ファッションに身を包んだ女性たちは、一大ギャルカルチャーをつくります。
09年には雑誌のうしろの方に、agehaの読モが商品を紹介する「通販ページ」が登場。中條元編集長はこの時、かなり抵抗したそうです。
「(通販を始めると※引用者注)会社に言われたときは本当に嫌でしたよ。でも会社の方針として、儲けるためにやらなきゃいけないじゃないですか……」
「読者の子がいろんな情報を得るために雑誌を買ってくれるのに、そこで物を売りつけるというのはすごく嫌なんですよ。やらなきゃいけないと言われた時はすごく抵抗しました」
(「小悪魔ageha」編集長にインタビュー、世の中には「かわいい」か「かわいくない」の2つしか無い - GIGAZINEより引用)
コンテンツで勝負したいとの思いが強く、読者に「情報」以外の服やカバンを売ることにすら抵抗していた中條元編集長。彼女の意志の強さには感服です。が、結果としては通販の開始がきっかけで、売上は右肩上がりに。
新規事業として通販事業を開始した2009年3月期には年売上高約74億9600万円を計上していた。 (大型倒産速報 | 帝国データバンクより引用)
中條元編集長には、色んな思いがあったことでしょう。その後は「小悪魔ageha風の雑誌を作れば儲かる」との思惑から、同じようなファッション誌が次々に創刊されていきました(今では1冊も残ってませんが)。
――初めてパクリが出たと知ったときはどうしました。
中條さん:「すぐパクリ雑誌を出した編集部に電話しました」
――どんな内容だったんですか?
中條さん:「別に苦情ではなくて純粋に聞きたいことがあって電話をしたんです。「編集者として恥ずかしくないんですか?」って。「わたしは編集者としてほかの雑誌の内容をすべてまねるということは絶対にしたくないと思っているのですが、あなたは編集者として何から何まで同じに作って恥ずかしくないのですか?」って(後略)」
(「小悪魔ageha」編集長にインタビュー、世の中には「かわいい」か「かわいくない」の2つしか無い - GIGAZINEより引用)
この発言からは、中條元編集長が、利益目的で儲かりそうなコンテンツのコピーを量産することに対して嫌悪感を覚えていることが分かります。
2010年、『ageha』の親会社が変わる
ageha全盛期の10年、カラーズインターナショナル株式会社がインフォレストを買収します。中條編集長はここで、またも親会社が変わってドタバタに巻き込まれることに。経営体制の変更で、インフォレスト社は下記3社に分割されました。
1)「インフォレスト株式会社」 - グループ統括機能担当
2)「インフォレストパブリッシング株式会社」 -『ageha』などの雑誌出版部門
3)「インフォレストマーケティング株式会社」 - 広告機能担当
(インフォレスト - Wikipediaより引用)
ほどなくして11年11月、彼女は『ageha』の編集長を「卒業」すると明言*4。「版元はもうこりごり」と語っています。
「いつの間にか親会社が変わったり、知らない間に株主だかオーナーだか社長だか役員だかが大量に増えて、現れてもすぐ消える身元がわからないおじさんたち。みんな好き勝手なことだけ言って、私たちが耕した畑の作物だけを持って行く。もちろん、拒否権はなし!というのが自分のいる出版社だけではなく、中小はどこも何かしらが一緒だと……」
「その原因は役員おじさんたちのせいではなく、今の出版業界が非常に混乱しているからで。」
「雑誌はおまけで”おまけ”が本命という、雑誌破壊のA級戦犯が潤う反面(※引用者注:「A級戦犯」とは、付録ブームの火付け役となった宝島社のことかもしれません)、本当に面白いページだけを求めている読者が宙に浮き、私たち編集者という小作人は『いいページを作りたい』という編集のアイデンティティさえ奪われた」(『週刊金曜日』2011.11.11号 中條寿子エッセイより引用)
雑誌業界が、売上のために「おまけ中心主義」へとかじを切っていく中、中條元編集長は「編集のアイデンティティ」を奪われたとの思いから、agehaを去って行きました。
『ageha』は短絡的な「利益追求」へ
彼女が辞めたあと、『ageha』の誌面は画一的になり、中條元編集長が嫌っていた付録がつくように。たしかに「かわいい、使える」付録もありましたが、"付録の雄" である宝島社のクオリティにかなうわけはありません。「ヘンな付録は要らないからさぁ、価格下げてよ」みたいな意見がネットでもちらほら聞かれるようになりました。
広告に関しても、彼女が卒業したあとは「タイアップ記事」が大量に増え、「儲かるようになったのかしらん?」と思ったものですが…agehaが広告で分厚くなっていくことは、遂にありませんでした。
読者層が若いギャルや「夜の蝶」に限定されているので、大手ブランドなどからは、相変わらず敬遠されているのです。広告は現在も「体入(=キャバクラなどの体験入店)ドットコム」や「出会い系サイト」「中小の化粧品メーカー」「夜の仕事用ドレスのネットショップ」などが中心。
熱心な読者としては、付録とタイアップに流れ、それでも売上が増えない(ように思われる)agehaに一抹の寂しさを感じつつ、買い続けるという状態が2年ほど続きました。昨今はモデルオーディションの開催やアイドル化で、新たな読者を獲得できたかとも思われたのですが、ついに今回の倒産。
全盛期の『ageha』を買収したカラーズインターナショナルにとっては、結果的に損な買い物だったということになりましょう。『ageha』には、まだまだそれなりに読者もいるので*5、雑誌部門だけどこかに売却されるのかもしれません。
ただし、しばらくは休刊の可能性もあるでしょう。Amazonや他の書籍通販サイトに『ageha』の次号(14年6月号)が登録されていないからです。『ageha』と同じ、毎月1日発売のギャル雑誌『egg』の次号は既に登録されているので、agehaがしばらく休刊となる可能性は高い。編集部にはきっと、不安な空気が漂っていることでしょう。全盛期のagehaに触発され『キャバ嬢の社会学』(星海社新書)まで出した自分としては、色々な思いが交錯します。
「現れてもすぐ消える身元がわからないおじさんたち」の買収劇に翻弄される中で、信念をもったカリスマ編集長が静かに去っていく。そして雑誌は当初の輝きを失い、売れなくなって、親会社も倒産へ……。
万が一『小悪魔ageha』が休刊になるとすれば、さびしいことです。何らかの形で存続していってくれればなと、淡い期待を抱いております。
(↑写真は、創刊号から全てコンプリートしている我が『ageha』コレクションです…)
【北条かやプロフィール】
86年、石川県金沢市生まれ。「BLOGOS」はじめ複数のメディアに、社会系・経済系の記事を寄稿する。同志社大学社会学部を出たのち、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。会社員を経て、14年2月、星海社新書より『キャバ嬢の社会学』刊行。
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