毒を抜かれた『小悪魔ageha』

 

 前回のブログには想像以上に反響があり、嬉しいやら恥ずかしいらです。というわけで誰も覚えてないと思いますが「次回はagehaネタで」と書いてしまったので、2月号が発売されて久しい(小悪魔agehaは月刊誌で1日発売です)のですが、元総合編集長中條氏が去った直後の『小悪魔ageha』について書こうと思います。

 

中條氏が辞めた『小悪魔ageha』はズバリ、少しずつ毒を抜かれています。

彼女が去って初めて出た1月号では「X'mas着回し特集」が組まれ、他の赤文字系雑誌と同レベルの欲望を煽ることに終始しているように感じます。なによりモデルの写真が修正されすぎて皆同じ顔に!以前はもっと、1人1人一人ひとりが強烈に主張していたのですが…。

発売から全号全巻、揃えるほど熱心な読者である自分にとって、そんなagehaを読むのは辛かった。まず、タイアップ記事の多いこと多いこと。もちろん今までのようなマニアックなメイク、ファッション特集もあるのですが、所々でこれまで見たことのないような(優良な?w)企業とのタイアップや広告が増えている。小悪魔agehaの信条が毒を抜かれている感じ。

そういえば、agehaならではのコピー(例:髪型特集で「視線そらしてハットトリック流し☆」とか「急降下すぎるけど大丈夫スジストレート」とか)も、ここ数ヶ月はキレが失われていた。たとえば12月号の、「彼氏への愛がいっぱい!ハート型ハーフアップ」。こんなネームなんて今どき、10代向けギャル雑誌「popteen」や「Ranzuki」でもやりません…

元総合編集長の中條氏は、ある雑誌の連載で「編集の仕事は麻薬のようなもの。納得のいくネームができるとそれ以上のネームを考えたくなる。書けないと苦しくなる」と言っていました。彼女が去ったagehaからは、以前の「時々変な方向へ行っちゃうこともあるけど妙に目が離せないネーム」が消えた気がします。

また1月号のagehaで特に残念だったのは、「さとみんX'mas24daysラブコーデ」特集。クリスマスまでに彼氏を作る着回しコーデって今時、部数の落ちたJJですらやらないよね、と、残念な気持ちに。

小悪魔agehaは「クリスマス着回し特集」みたいな赤文字系のテンションに手を出してはいけなかったのです。ああいうのは本物のスイーツがやるから微笑ましいのであって、四六時中病んでるage嬢たちがスイーツと同じ事をやったら痛々しくなってしまう。

X'masまでに彼を作る着回し特集やお部屋拝見!みたいな特集は、agehaが売れてきた要因である「モデルの強烈な個性」を潰してしまうのです。クリスマスまでに彼氏を作りたい女なんて、固有名を持ったagehaモデルである必要はない。誰が「主演」しても一緒なのです。

CanCamに代表される赤文字系雑誌はよく、着回し特集で主演するモデルの、特集上での属性を「東京生まれの24歳。都内女子大卒業後、大手メーカーで働く。付き合って5年目の彼とは安定した関係で、そろそろ結婚も意識中」みたいな感じで設定します。だけど、こういう薄ーいキャラ設定をagehaがマネしても駄目なんですよ

なぜなら、そもそも地方でよく売れるagehaの読者は「東京生まれの24歳OL」ではなく「大手企業の営業アシスタント」で働けるほどのコネも持っていないからです。社会的な属性によって読者の共感を得るキャラを設定するのは無理なのです。だからこそagehaは、モデルの強烈な内面を打ち出すことで部数を伸ばしてきた

中條氏が辞めたagehaは、赤文字系雑誌をマネして「X'masまでに彼氏を作る着回し特集」を組んでいます。主演のキャラ設定は、特に内面的個性のない「内気な恋はしない主義の、恋に強気ガール」。これは別に、人気agehaモデルのさとみんがやる必要はないでしょう…中身のない女の子の役は、誰がやっても同じです。さとみんの個性も全く活かしきれていません。

agehaの読者は、地方に住み東京に憧れるフリーターや学生、都市郊外のキャバ嬢などバラバラです。でもそれぞれが、ageモへの憧れと、時々企画される「病み特集」への共感でうまいこと繋がっている。だからモデルの個性を消す「着回し特集」は、やってはいけなかったのです。

モデルの個性をうまく消すのは赤文字系の専売特許なので、モデルの個性を売りにしていたagehaが下手に真似すると失敗するのです。agehaはモデル達の「経験の固有性」によってファンを獲得してきたのだから。

中條氏は以前「私は赤文字系雑誌読者の生態がわからないし(略)「合コン行って電通マンをゲットする」みたいな文化があるのかもしれないけど(略)こっち側の文化は「モテ」は関係ないんです」と言っていました。そんな彼女がageモを選ぶ基準は「誰にも似ていないか、苦労してる感じがあるか」。

CanCamが「痩せて綺麗になって彼氏を作る!」特集をやるなら、agehaは「アイツ以上が現れない…只今、思い出刑務所服役中」をやらなきゃいけないCanCamが「一重さん奥二重さん必見!愛メークでデカ目になろう!愛は小粒目を救う!」なら、agehaは「一重だって奥二重だってメザイクを使って努力すれば二重になれる」とあっさり言ってのける。age嬢はメイクに男の愛を必要としないのです。愛=男は裏切るけど、メイク技術は裏切らない。

また中條元編集長は、小悪魔agehaの部数をやみくもに伸ばすことは望んでおらず、「本当に必要としている女の子だけが読んでくれる深夜放送的な雑誌」でいたいと言っていました。でも株主や上層部が変わって、そうもいかなくなったのでしょうか。

彼女が抜けた1月のagehaには「決め手は男ウケファッション!」のコピーが踊り、2月号には靴下の付録がつきました

かやはagehaがどうなろうとも読み続けますが、男ウケ・モテファッションが見たいのであればCancamで十分かも…とも思います。まあ結局、今月もageha買っちゃったんですけどね。2月号のagehaのお話はまた今度~。

 

 【北条かやプロフィール】

86年、石川県金沢市生まれ。「BLOGOS」はじめ複数のメディアに、社会系・経済系の記事を寄稿する。19歳の時、大澤真幸『身体の比較社会学Ⅰ・Ⅱ』を読み衝撃を受け、以後社会学に没頭。同志社大学社会学部を出たのち、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。

星海社新書「キャバ嬢の社会学」より引用

Twitter  @kaya8823

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