文学作品を通して「人間とは何か」を考える。「ハンセン病文学」をテーマにビブリオバトルが開催

ビブリオバトルは読書界の「スポーツ」


ビブリオバトル」という、本の紹介コミュニケーションゲームを知っているだろうか。参加者が各自「面白い」と思った本を持ち寄り、1人5分間で内容をプレゼンする。その後2~3分間の質疑応答が行われ、最終投票では「どの本がいちばん読みたくなったか」を基準として“チャンプ本”が決定される。最後まで結果がわからない、スリルあふれるイベントだ。

ビブリオバトルのやり方の図

公式サイトによると、2007年に京都の学生有志が始めたのがきっかけ。今では全国47都道府県すべてで開催済みで、大学の約3割が導入、毎年行われる全国大会も盛況だという。ここ数年はマスコミに取り上げられる機会が増え、私も「読書会と似たようなものかな」と思っていた。が、実際のプレゼンテーションをYou Tubeなどで見てみると、まったく違う。まさに「バトル」で、1冊の本にじっくり親しむというよりは、短時間で多くの本や他者の考え方を知ることができる「スポーツ」に近い。コミュニケーションによって読書の輪を広げる効果もあり、ネットを通じて、ファンは自己発生的に増えているようだ。

ビブリオバトルハンセン病を「つなぐ」


そんな00年代のネット社会を象徴するかのようなビブリオバトルと、明治時代から続く「ハンセン病」の問題をつなげようとのプロジェクトが、日本財団によって開催される(「『世界ハンセン病の日』にビブリオバトル開催!」 )。毎年1月の最終日曜日は、「世界ハンセン病の日」とされており、2016年1月31日(日)に、ハンセン病文学をテーマとしたビブリオバトルが行われる。場所は六本木の多目的スペース「umu」。参加者は事前審査で選ばれた5人で、対象作品は、真正面からハンセン病を扱ったルポなどにかぎらない。

ひとくちに「ハンセン病文学」といっても、その幅は私たちの想像を超えて広がっている。松本清張の名作『砂の器』はもちろん、遠藤周作の『わたしが・棄てた・女』(個人的にも思い入れのある作品だ)、海外からはサマセット・モームの『月と6ペンス』などの名作にも、ハンセン病が登場する。宮本常一の『忘れられた日本人』にも出てくるという。手元にある岩波文庫版を読み返してみたら、確かに一部、ハンセン病患者に触れた箇所があった。 イベントは、こうした幅広い分野にまたがる「ハンセン病文学」を、ビブリオバトルで知ってもらおうとの試みだ。

ハンセン病を考えることは、人間を考えること」


日本財団は40年近く、国内のハンセン病支援に携わってきた。近年はより啓発活動に注力し、ウェブサイト「THINK NOW ハンセン病」には、ダライ・ラマ法王をはじめ、田原総一朗に元F1選手の片山右京、広告界のカリスマである佐藤可士和や、タレントのマツコ・デラックスなど、著名人らがメッセージを寄せる。昨年は、フォトグラファー富永夏子氏による写真展ハンセン病を考えることは、人間を考えることの開催も話題になった。富永氏は、ハンセン病を考えることは、人間を考えること」と言う。人間を考えることは、「すぐ隣にいるかもしれない身近な人々が抱える、病や差別、イジメなどの問題に思いを馳せる営み」(富永氏)でもある。

インドモティプール・ハンセン病コロニー(撮影:富永夏子)



その、身近な差別に思いをはせてもらうための「入り口」が、今回はビブリオバトル=文学作品との出会いとして開催される。

今回のイベントの広報を務める佐治氏は、次のように話してくれた。

「これまでの啓発活動で、ハンセン病の歴史や差別を知ってくれた人たちは、すでに関連文学作品も読んでくれている。そういう人たちには、社会問題としてリーチできているという実感があります。ただ今年、あえて流行の『ビブリオバトル』を取り入れたのは、まだハンセン病に興味がない人が、身近な文学からハンセン病を知り、周りの人たちに伝えるツールにしてほしいからなんです」

同じく日本財団の和田氏も、「ハンセン病を考えるビブリオバトルをきっかけに、大学のゼミなどで差別について考える学生が増えたり、啓発イベントをおこなう若者が増えたり……そうした『つなげる』効果も期待しています」と語る。

イベントは無料で、2016年1月31日(日)、13:00~16:00を予定。場所は六本木の多目的スペースumu(東京都港区六本木6-9-1)。私も一部始終を観覧しようと思っている。ぜひ皆さんも、このビブリオバトルをきっかけに、人間が抱え込んできた「差別」という普遍的な問題に触れ、思索を深めてみてはどうだろうか。