「両立できそうな仕事はないし、大変そう」尻込みする専業主婦たち。彼女たちを労働市場に「連れ戻す」ために必要なものって何だろう。

経済成長のために「女性活用」ムードが盛り上がる昨今。結婚や出産などで“家庭に入った”女性たちに、再び働いてもらおうとの機運も高まっています。そんな女性たちへ向けたイベントが名古屋で開かれると聞き、7月19日(土)、「ママの就活応援フェスタ」(於・名古屋栄三越)に参加してきました。名古屋の子育て事情が知りたい!という好奇心もあり、どんなママたちが集まるのかもちょっと楽しみです。

共働きのエキスパートが語る、「小1の壁」の本質とは?

午前11時。イベントの1stステージは、保育ジャーナリストの普光院(ふこういん)亜紀さんによる講演。題して「再就職と子育ての両立入門」です普光院さんは、出版社で働きながら2人の子供を育てた経験から、『共働き子育て入門』(集英社新書)などの著作を多数出版、「保育園を考える親の会」の代表も務めておられる「共働きのエキスパート」です。お話の中で最も興味深かったのは、共働き夫婦が直面する「小1の壁」について。

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(写真:保育ジャーナリスト、普光院亜紀さんの講演の様子)

「小1の壁」とは一般的に、「保育時間の壁」だと考えられています。保育園に預けている間は、20時や21時までの延長保育があったのに、子供が小学生になって「学童保育」を利用するようになると、預かってもらえる時間は一気に18時頃までになってしまう。よって多くのワーキングマザーは、「誰に子供を見てもらえばいいの!?」と両立の困難に直面するのです。が、この「小1の壁」、普光院さんいわく「保育時間の問題ではない」というのです。え、どういうこと?

自由に遊んでいられた幼児期とは打って変わって、小学生になると、宿題や明日の準備などの課題が増えます。子供には自分で自分を律する力が求められるようになります、その分、ストレスも増える。これが本当の「小1の壁」なのです。なるほど、「保育時間の問題ではない」というより、「保育時間の問題に加えて、子供が自立するための負担がのしかかる」のが「小1の壁」なのですね……。共働きだと、この壁をいかに乗り越えるか、かなり大変そうです。

それでも「共働きのメリット」はある

職場では、「お子さんはもう小学生だから、楽でしょう?」と言う人もいるでしょうし(実際は保育園の頃より大変なのに!)、子供が小学生になってからも「時短制度」を使える会社はまだ多くありません。子供は周囲が思うほど、すぐには自立してくれませんし、やっぱり「手をかけて」育ててあげるのがよいのではないか。小1の子供が学校から帰ってきたときに、鍵っ子はかわいそうかもしれない。サポートがない中での共働きって大変だよなぁ……と、暗い気持ちに。ただ、普光院さんいわく、それでも共働きには「ポジティブな面が沢山ある」といいます

母親が働いていれば、家事がおろそかになる、子供との時間が減るなどのデメリットもあるわけですが、こうしたデメリットは、家事を通して夫婦の相互理解を深めたり、子供から適度に目を離すことで自分は外の人間関係を広められるといった「メリットの裏返し」でもあるからです。何より、子供にベッタリにならない、過干渉にならずにいられる。さらに最大のメリットは「経済的なゆとりができること」。その上、外の世界に出ることで自己成長できるのであれば、共働きも悪くないかもしれません。そんなことをあれこれ考えているうち、イベントは2ndステージ、「再就職ママの好感度アップ外見術」へ。

スタイリストが指南する、「お仕事ママ服」の真髄とは

次は、アラフォー向けファッション誌『STORY』などで活躍するスタイリスト、若狭恵美さんによる「お仕事ママ」のファッション指南です。若狭さんは愛知県の出身。2歳の女の子を育てるワーキングマザーでもあります。個人的にはファッション術よりも、彼女がいかに両立ライフをこなしているか、というお話に心惹かれました。

「スタイリストは、常に最新の流行を知っている必要がある。育児で休んでいると、流行についていくのはかなり大変でした」(若狭さん) 

 

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(写真:左がスタイリストの若狭さん。マネキンは左が「面接用」、右が「お仕事用」の着こなし。どちらも洗える素材で、産後の体型変化をうまくカバーしてくれるシルエット、かつストレッチ入りで動きやすい服装です。大ぶりのアクセサリーで華やかさを出すのもポイント)

フリーランスのスタイリストなので、断っていると仕事は減ってしまう。両立は難しいですが、今は仕事をセーブしながら、夫に助けられつつ働いています。最近、子供が2歳になって、ようやく仕事のペースが掴めてきたところです」(若狭さん)

同じフリーで働く者として、「断っていると仕事が減る」という点にはかなり共感しました。子育て中は仕事がしたくないのなら、断ればいい。でも、確実に仕事はなくなります。会社ではない場所で、ある意味「個性」(という言い方は嫌いですが、あえて使います)を発揮して働きたいと「フリー」を選んだ人間は、自由を得る代わりに、「子供を産んでも育休はおろか、仕事が続く保障もない」という現実を受け入れる必要があるのでした。先が思いやられる……。

スタイリストの若狭さんは、「食事は朝、煮込み料理をまとめて作っておく」などの工夫のほか、時にはベビーシッターをお願いすることもあるそうです。さらに、

「スタイリストという仕事柄、どうしてもアクセサリーを身につけたり、ハイヒールを履いたりすることは多くなります。保育園へお迎えに行くときは、イヤリングを外したり、ヒールからスニーカーに履き替えたりしますね。遅くなった時は特に……」(若狭さん)

カジュアルな格好の母親たちが多いお迎え時、何かと「浮かないように」気を使っておられるのでしょう。華やかな世界で働く彼女も、保育士さんや他のママの「人目」を気にしているのでした。

若狭さんは、スタイリストという仕事柄、かなりおしゃれです。当日のファッションは、モノクロのプリントTシャツに、シルエットがきれいな黒のクロップドパンツ。足元はポインテッドトゥのパンプスで、手首には太いバングル(ゴールド)。イヤリングもゴールドで統一されていて、まさに青山あたりを歩いていそうな……そんな彼女も、両立で苦労しているのだなぁ……。

終わった後、参加者の主婦の方にお話を伺ったところ、

「ファッションのお話はためになったけど、あんなおしゃれな人、名古屋にはいないよねぇ。ちょっとあの格好じゃ、名古屋は歩けないわ……」

と仰っておりました。「そもそもおしゃれにあんまり興味がなくて」というママも。え!名古屋も十分、都会でおしゃれなイメージがあるのに!と感じたのですが、そこはやや保守的な土地柄もあるのでしょうか。

ワーキングマザーのメイクは「時短」が鍵

3rdステージは、「再就職ママのお仕事メイク術」。メイクアップアーティストが「面接用」「お仕事用」のメイクを教えてくれるものです。イベントでは、実際のお母さん2名がメイクを体験。「アイラインはぼかす」「目の下にパープルのハイライトを入れると、クマをカバーして明るく見せられる」「目頭にパールの明るいアイシャドウを入れると、涙袋っぽくなって若く見える」など、ためになるテクニックが沢山ありました。

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(写真:「面接で採用されるための信頼メイク」を伝授)

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ただし実際のワーキングマザーは、毎朝そこまでゆっくりお化粧をしている時間はありません。というわけで、メイクアップアーティストさんに「本当に忙しくて時間がないときの、究極の時短メイクは?」と尋ねたところ、まず「BBクリーム」を頬の広い部分に塗り、あとは眉毛だけしっかり描けばOKとのことでした。忙しい毎日、お化粧はコツを押さえて時短で済ませるのがいちばんかもしれません。

名古屋のお母さんたちは、働きに出る必要がない?

今回のイベントは全体を通して有意義なものでしたが、そもそも参加者がかなり少ないのが気になりました。事前PRはかなりされたようなので、名古屋の「ママ」たちはもともと、あまり就職をしたがっていないのでしょうか。何となく、「女性の活躍推進!とか言われてもねぇ」という、やや冷めた空気も感じたのでした。

県民性で全てを語ることはできませんが、名古屋はもともと、かなり保守的な土地柄だと言われます。悪く言えば「閉鎖的」というのでしょうか、あまり県外に出たがらず、女性は地元の「お嬢様学校」を出て、お金持ちの男性と結婚して主婦になるのが幸せ……そんな価値観も根強いと聞きます。愛知県の共働き率は全国35位で、決して高くはありません。「共働きって良いよ!」と言っても、あまり通じない土地柄なのでしょうか。昨今は名古屋に多い製造業の業績も回復傾向にあるので、「夫の給料が減ったから私が働かないと」という気分も生まれにくいのかもしれません。

今回のイベントは、経済産業省が主催する「主婦インターンシップ」のPRが目的でもあります。育児や介護などで退職した女性が、中小企業で2週間~3ヶ月間のインターンシップを経験するという主旨で、参加した女性には5000~7000円の日給も支給されるというもの。昨年度は延べ3000人以上の女性が参加し、47%がインターンシップ先やその他の企業に就職したそうです。今年度は応募要件を大幅に緩和するなど、ますます力を入れている様子。とにかく経済界は、「『眠った労働力』である専業主婦たちを、いかに労働の場に引っ張りだすか」に一生懸命なのです

母親たちは本当に働きに出たがっているのか?

こうした政府の施策は重要だと思う一方で、「多くの母親はそもそも、働く意欲を持っているのか?」という点が気になります。最近の調査では、今年6月に「リビングくらしHOW研究所」が全国の主婦623名(平均年齢44歳)を対象に行ったアンケートがあります。同アンケートでは、「現在仕事をしていない」主婦を対象に、「仕事をしたいと考えていますか?」と尋ねているのですが、「すぐにでも働きたい」と「いずれは働きたい」を合わせた割合は63.3%を占め、「(働くことは)考えていない」(34%)を大きく上回りました。が、「働きたい」の内訳を詳しく見ると、「すぐにでも働きたい」が12.7%、「いずれは働きたい」が50.6%。多くの専業主婦は、「いつかは働きたいけど、今すぐではない」と考えているのです

同調査によれば、主婦たちが「再就職」にあたって求める条件は、最も多かったものから順に「家から近い」「家事・子育てに支障がない」「給料」「時間の自由」。子育てに忙しい主婦たちにとっては、賃金の高さよりも、両立のしやすさの方が重要だと考えられているのですね。もっと言えば、多くの主婦は「そもそも家庭と両立できそうな仕事がないから、職探しの意欲も失っている」可能性が高いのです。人材不足だからといって時給を上げても人が集まらないのは、主婦たちのニーズに合う仕事が少ないからです。

いったん“家庭に入った”女性たちは、就労意欲があったとしても、「家事育児との両立は大変そう」と不安を抱き、「条件の合う仕事があれば、いずれは働きたいけど、今はいいかな……」と思っている。このように「尻込み」しがちな専業主婦たちの「能力」を上手く活かそうというのなら、まずは「両立のしやすい仕組みづくり」から始めることが必要ではないでしょうか

【北条かやプロフィール】

86年、石川県金沢市生まれ。「BLOGOS」はじめ複数のメディアに、社会系・経済系の記事を寄稿する。同志社大学社会学部を出たのち、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。会社員を経て、14年2月、星海社新書より『キャバ嬢の社会学』刊行。

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