就職することは「残念」なのか~イケダハヤトさんと学生の対話から~

イケダハヤトさんが、就職が決まった学生に対し「残念だ」と繰り返す対談が話題になっています。「就職、ほんとうに残念です」 会社に入るなんてマジでつまらない! イケダハヤト×小川未来【前編】 | 小川未来『就活事変』 | 現代ビジネス [講談社]

「そうかぁ。残念だなぁ・・・。はあ、残念だなぁ」。有能な学生が、リクルートという大企業の中で埋没し「面白くなくなっていくこと」をひたすら嘆くイケダハヤトさん(09年卒)。一方、迷いつつも大企業への就職を決めた学生編集者の小川未来さん(15年卒)。彼らの間には6年の差がありますが、イケダさんいわく、この6年でツイッターフェイスブックの普及など、若者のネット環境は激変したといいます。

小川:(中略)イケダさんだって会社入ってるじゃないですか。

イケダ: 当時は選択肢がなかったですからね。

小川: イケダさんとぼくって学年でいうと6個差ですよね。09年卒と15年卒で。(中略)この6年で、そこまでがらっと変わったんですか?  イケダさんが今だったら就活してない?

イケダ: ぼくだったら絶対そっちのほうが美味しいと思うから、就活してないと思いますよ。実際それが許される選択肢が広がってるわけですから。ぼくの頃はTwitterFacebookがないですから、あんまり選択肢の多様性がなかったし見えなかった。 

それなりのスキルと発信力、覚悟さえあれば「フリー」でやっていける今だからこそ、イケダさんは「せっかく面白いのに、没個性的な会社員になろうとする」学生を「残念だ」と感じるのでしょう。

会社に入ると面白くなくなる

イケダさんの主張をごく簡潔にまとめると、下記のとおりです。

学生時代に面白いことをやっていて、注目されていた人が、会社に入るのは機会損失である

サラリーマンになると、組織に埋没して面白くない人間になってしまう。学生時代は自分のやっていることを「面白がってくれる人」がたくさんいたのに、そういう「面白がり屋さん」の大部分は、サラリーマンのことを面白がらない。

会社で影響力のある仕事をしても、「自分の影響力」には紐付かない。だから会社で働くのは、有能な人にとっては「時間の無駄」。

これらはもちろん、独立してもやっていけそうな能力をもつ学生に対しての発言ですから、すべての人へ向けて言っているとは思えません。が、イケダさんのように「常に面白いことをやっていたい、それをダイレクトに評価されたい」タイプのビジネスマンにとっては、生き方の根幹ともなる考え方なのだと思います。

「社会人になっても、自分は今のまま面白いと思ってもらえるのか?」

対して、就職を決めた小川さんの意見はこんな感じです。

自分が今、面白がってもらえているのは「学生」というゲタを履かせてもらっているから。

社会に出たら一社会人として評価される。そのとき、自分が「面白い」と評価してもらえる自信はない。それなら、少なくとも3~4年は会社組織の中でいいと思っている。

・とはいえ、学生時代に面白かった人(Twitterのフォロワーが多かったり、Web経由で仕事を生み出していた人など)が、会社に入ると発信をやめてしまうのを見ると、そういうふうにはならないし、なりたくない。何らかのアクションは続けたい。

小川さんは、今やっていることは「学生だから評価されている部分がある」と、冷静に見つめています。イケダさんが「面白いのにもったいない!」とアドバイスしても、「学生じゃなくなった時の自分がどうなるか(もしかすると評価されないんじゃないか)」という不安があるのです。その気持ちは何だか分かる気がします。自分もそうだったので。

 一方で、小川さんのこの発言、

「例えば、社会人になって下積み3年とか、ソーシャルメディアポリシーとか言うじゃないですか。3年間、SNSやめるとかあり得ないですよ。ぼくの場合は。性格的にも、キャリアプラン的にも」

「就職、ほんとうに残念です」 会社に入るなんてマジでつまらない! イケダハヤト×小川未来【前編】 

には、これまで自由にやってきた学生ならではの「自信」と、「会社の中で発言(≒個性)を抑制されることへのおそれと反発」が見え隠れしています。学生というのは特権的な存在ですから、何をしても目上の人から珍しがってもらえたり、可愛がってもらえたり、賞賛されたりします。「生意気だ」という批判さえ、時には妬み半分の褒め言葉だったりする。

だから、学生という「上げ底」がなくなった時に自分がどう評価されるか試してみたいという気持ちは、ごく自然なものだと思われます。「安定した場所で挑戦したい欲求」というのでしょうか。最近の新入社員にもこうした傾向があるようですね。

新入社員の7割が終身雇用を望むも、チャレンジ志向は増えている

リクルートマネジメントソリューションズが13年入社の新入社員に対して行った調査*1によると、年功序列派」が4割、「成果主義派」が6割。2010年の調査と比べ、成果主義派が約5ポイント増加しているんですね。一方で7割の新人が「終身雇用」を望んでいる。「安定した環境のもとでチャレンジしたい」との意識が見え隠れします(詳細についてはY!ニュースに記事を提供しました)。

リクルートへの就職を選んだ小川さんにも、こういう傾向がピッタリ当てはまるぞ!と言うのではないです。でも、ある程度の失敗が許される環境下で思いっきりチャレンジしてみたい、実力を試したいというのは、学生らしい欲求として理解できますよね。

(もちろんイケダさんが、彼の就職を「残念」と嘆く気持ちもまた、彼の持論からすれば当然だと思います。が、企業のルールからはみ出してしまうほどの個性を持った人なら、就職してもすぐにフリーの道を選ぶのではないでしょうか。)

「会社員VSフリー」の二項対立でものを考える必要は、あんまりない

私も一度は会社員になりましたが、見事に適応できませんでした。退職するときは、「イケダさんの言うところの "面白がってもらえる人間" に、自分もなれそうな気がする、今やらなくては本も出せないだろう。文章力だって全然ない。これから鍛えていたら、30歳をこえてしまう。そんな自分に需要はないだろう。だから今やるしかないのだ」という焦燥感と信仰心のようなものがあった。何を信じていたのか具体的には言葉にできないのですが、とにかく会社をやめました。

「会社員としては全然ダメ」だったことが分かっただけでも、退路を断つ覚悟はできたのかなと思います。だから、イケダさんのように「自分は面白いはず」という確信がいまひとつ持てない人は、とりあえず就職して、コテンパンにやられるのもいいのではないでしょうか(もちろん、就職先がブラック企業なら話は別ですが)。

会社員をやる中で、上司から注意を受けたり、ミスに泣いたり、毎日仕事のことで頭がいっぱいになってオロオロしているうちに、「もっと発信したいのに!何か書きたいのに!仕事が、会社という組織が、それを邪魔するのだ!」という思いが鬱積し、それらを一気に発散しようと、退職する人がいてもいい*2

ノマドがOKで会社員はダメとか、まずは会社員をやってみるべき、フリーはダメといった二項対立で考えるのではなく、何をしている時にいちばん「強度」を得られるのか、という視点で進路を選んでもいいと思うのです。 そうすれば、自然とやるべきことは決まってくるのではないでしょうか。就職をめぐるイケダハヤトさんと学生の対話を読んで、そんなことを考えました。後編の公開も楽しみです。

【北条かやプロフィール】

86年、石川県金沢市生まれ。「BLOGOS」はじめ複数のメディアに、社会系・経済系の記事を寄稿する。同志社大学社会学部を出たのち、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。会社員を経て、14年2月、星海社新書より『キャバ嬢の社会学』刊行。

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*1:従業員500名以上の企業に所属する大卒ホワイトカラーの新入社員400名に対し、Webアンケートで実施。

*2:一方で、作家の朝井リョウ氏のように、仕事と執筆を両立させている人の器用さと才能には感服します。