資生堂の「お正月広告」に新社長の本気を見た?!
毎年、資生堂の「お正月広告」をみるのが楽しみです。同社は05年に「一瞬も 一生も 美しく」*1を掲げて以来、毎年これをテーマに(時に迷走しがちな)メッセージを打ち出してきました。同社の業績はここ数年、低迷を続けています。国内での認知度は、「資生堂はよく知ってるけど個別のブランドは…マキアージュとか? あと何だっけ?」みたいな感じになり、多くの若い女性はドラッグストアの「プチプラコスメ(プチ・プライスコスメの略)」に流れていきました。
そんな昨年末、140年以上の歴史を持つ同社で初の外部社長、元日本コカ・コーラ社長の魚谷雅彦氏が起用されるというニュースがかけめぐり、そろそろ本気出す!モードに入ったようです。なので今年は新年にどんなメッセージを打ち出してくるのか、勝手にワクワクしておりました。
2014年 2年連続、モデルの水原希子を起用。力強さを全面に
[ 2014年元旦、モデル=水原希子 ]
メッセージは
「それは、心を奪うか。
それは、想像を裏切るか。
それは、人生を揺さぶるか。
美しさに、答えはあるか。
何度でも挑み続けろ。」
PRタイムスでの公告によると、
2014年の新聞広告では、「最高の美」に挑み続けるという姿勢を、コーポレートカラーの「赤」を背に、モデルである水原希子さんの表情とメーキャップで表現し、「一瞬と一生」の美を、花咲くように勢いをもって弾けるスキンケア化粧水のシズルによって表現しています。
とのこと。 これまでのお正月広告と比べ、ガラリと変わった印象を受けます。
以下、06年から13年までのお正月広告を一気に振り返ってみます。かなり長くなりますので、お時間とご興味のある方のみ、どうぞお楽しみください。
2006年 超豪華な12名のモデルたち
[ 2006年元旦、モデル=蛯原友里、観月ありさ、篠原涼子、仲間由紀恵、伊東美咲、小泉今日子、鈴木えみ、上原多香子、美波、栗山千明、相沢紗世、橋本麗香 ]
当時一世を風靡したエビちゃんから、仲間由紀恵、小泉今日子など、時代の「美」を代表する総勢12名の華やかな布陣で、圧巻でした。8年前、垢抜けない大学生だった自分は、元旦にこれを見た瞬間「ほぉ…」と溜め息が出たのを覚えています。コーポレートカラーの赤ではなく、白を貴重としているのも素敵でした。一方「モデルの美しさ頼み」で明確なメッセージがなく、おとなしめな印象です。
続いて07年はこちら。
2007年 12名のキャストから一転、匿名の母子像へ
[ 2007年元旦、モデル=不明 ]
前年の「美人タレント大集合」への反動からか、一気に「匿名の母という身体」を打ち出しています。カラーも06年の真っ白から漆黒の闇へ。
「人はこの世に生をうけたとき、美しい一瞬が始まります。その命の輝きを、誰もが等しくすこやかに磨きつづけられるように。美しい一瞬をつむぎ、豊かな一生へ育て、さらに未来へと託すことができるように。」
とのことですが、「揺りかごから墓場まで美を追求せざるをえない女の業」というか「漆黒の闇のもとで後ろを向いた母子像が示唆する『母性』の底知れなさ」というか、何やら恐ろしいものを感じました。
2008年 前年の母子像の、数十年後?
世代を超えて受け継がれる「美しくありたい」女性の思いが表現されています。前年の底知れない母性の闇は一掃され、背景は美しい銀色に。岸恵子の隣のマイコが、「この美女は誰?」と話題になったりもしました。
では、リーマン・ショック後の09年はどうなったのでしょうか?こちらです。
2009年 ナチュラルの代表格、蒼井優を起用
[ 2009年元旦、モデル=蒼井優 ]
06年の華やかな12名のモデル達とは真逆のナチュラル系女優、蒼井優を初めて起用したことからも分かるように、ナチュラル・自然・ありのままの美しさを打ち出すようになりました。リーマン・ショックで世界の金融市場が揺れる中、力強く伸びる椿の葉脈に生命力の輝きを感じ、ホンモノの何かを見つめたい…そんな気分が見え隠れします。で、10年はこちら。
2010年 「世界を変える」ため、ICONIQを起用?
[ 2010年元旦、モデル=ICONIQ ]
懐かしのICONIQです。メッセージは「私が変わる。世界を変える。」*2。閉塞感あふれる時代にあって「私が変わる。世界を変える。」…勇気づけられるような気がする一方、「そんなに頑張れないし…」という釈然としない感じも受けました。
「世界を変える」ということで、資生堂はこの前後から海外進出を進めていきます*3。10年には米通販化粧品大手ベアエッセンシャルを買収。ただしこの計画はその後、あまりうまく行きませんでした。海外事業は中国の反日デモなどもあり、最近は特に不振のようです。11年になると、ついに人間が姿を消します。
2011年 モデル起用せず、自社商品で銀座を表現
[ 2011年元旦、モデル=なし ]
同社の化粧品(アイシャドウや口紅など)を使って、銀座の地図を表現。「美しい生活をつくるための全てを、世界へ」というわけで、海外事業への注力を感じさせます。
一方で11年のこの広告には「資生堂の迷い」も見て取れます。同社はこれまで有名女優を起用した派手なキャンペーンで、高価な化粧品を売ってきました。が、リーマン・ショック以後、消費者はそのような宣伝コストが上乗せされた高価格コスメから、安価なドラッグストアコスメに流れてしまった。資生堂の、これまでの売り方が通用しなくなっている…有名女優の姿が消えた11年のお正月広告には、同社のそんな迷いが少しだけ滲んでいるような気がするのです。
そんな迷いを捨てようと (?) 創業140周年の2012年は、原点回帰とも取れる広告に。
2012年 再びナチュラルの代名詞、蒼井優が登場
[ 2012年元旦、モデル=蒼井優 ]
3年ぶりに蒼井優を起用し「お化粧をする。私はここにいる。」資生堂は12年4月、ECサイト『watashi+(ワタシプラス)』をオープン。え?今さらEC?という感じがしたものですが、13年3月には会員数が100万人を突破したようです。相変わらず、業績は下降の一途をたどっていくのですが…。
13年元旦には、モデルの水原希子が初登場。「わたし、開花宣言。」とのメッセージを打ち出します。
2013年 資生堂だからこそできる、話題のモデルのセミヌード
[ 2013年元旦、モデル=水原希子 ]
彼女は12年の映画「ヘルタースケルター」で、沢尻エリカ扮する"全身整形タレント"りりこが激しく嫉妬する"天然美人"の後輩モデルを演じて一躍有名に。セミヌードですが、モノクロであること、またモデルの彼女がかなり細身な体型であることから、男性目線の色っぽさは感じられません。
こちらが好評だったのか、14年は冒頭にも紹介した下記の広告。ふたたび水原希子を起用していますが、13年には満面の笑みだった彼女の表情が一転、今までにない力強さを放っています。コピーは「何度でも挑み続けろ」。「最高の美に挑む」という姿勢を表現したそうです。
[ 2014年元旦、モデル=水原希子 ]
資生堂はこれまで、元旦広告では「力を尽くしてまいります」とか「できることから、はじめよう」といった比較的やわらかいコピーを使ってきましたが、「挑む」という強い言葉を使ったのはこれが初めてです*4。新社長のもとでの「新しい資生堂」に対する期待が高まるような、躍動感あふれる斬新な広告でした。
マーケティングのプロという魚谷雅彦氏(59)が社長に就任する4月以降、どんな面白い戦略が飛び出すのか。たとえばドラッグストアで売っても決して値引きはしなかったマキアージュに今年はどんな付加価値をつけてくるのか、低価格帯コスメとして売りだしたものの人気はイマイチのアクアレーベルはどうするのか、低迷する海外事業をどう建て直すのか、などなど、資生堂の今後の動向と、来年の元旦広告が今から楽しみです。
【北条かやプロフィール】
86年、石川県金沢市生まれ。「BLOGOS」はじめ複数のメディアに、社会系・経済系の記事を寄稿する。同志社大学社会学部を出たのち、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。会社員を経て、14年2月、星海社新書より『キャバ嬢の社会学』刊行。
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