大島優子の卒業と「AKBブラック企業説」

紅白歌合戦で、AKBの大島優子さんが卒業を発表し話題になりましたね。

AKB大島優子、紅白で卒業発表Yahoo!ニュース)

 現在25歳の彼女は子役時代を含め「下積み」が長く、AKBのエースになってからも地道に努力を重ねてきた"頑張り屋さん"イメージが強いように思います。そんな彼女も、ここ最近は「疲れている」「体調が悪そう」といったニュースが目立っていました。

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 こうした記事を見るにつけ「トップアイドルの精神的苦労はものすごいのだろうなぁ…」と、普段アイドルに興味のない自分までいたたまれない気持ちになっていたものです。なので今回の「卒業」報道を耳にしたときは、「彼女はもう"AKBでいること"に疲れたのだろうな」と思いました。そういえばAKB系列のグループについては、以前から「ブラック企業」との類似性を指摘するコピペが出回っていましたね。

AKBはまるで「ブラック企業」? 主要メンバーが相次いでダウンJ-CASTニュース

■  東北の屋外で握手会後、「寒い。身体が痛い」

■「そろそろスト起こした方がいい」「酷使しすぎ」

■  最近2ちゃんねるでは「AKBはブラック企業というコピペが流行っている(元記事より一部引用)

 そのコピペを一部紹介すると、以下のようなものです。

「AKBはまさにブラック企業

・低賃金・長時間労働。ほぼ休みなし

・常にメンバーと競争、気を抜けばすぐ追い抜かれる

・握手会という名の営業過酷。対応悪ければ晒しものという実態

・楽屋隠し撮り、ドッキリ、サプライズなど常に仕掛けられ、気を休める暇なし

・粉まみれ、パイまみれ、ゲテモノ食わされたり、肉体を酷使

・プライベートは皆無。男と接近したたけでアウト

こうしてみると確かにブラック企業との類似性はありますが、個人的にはむしろキャバクラに近いのではないかと思います*1

 数年前、AKBがまだ「会いに行けるアイドル」として注目され始めていた頃のこと。研究室の先輩と、彼女らの労働環境について話していて、「会いに行けるアイドルって結局、キャバクラだよね」という話になったのです。

AKBとキャバクラの類似性は下記の5点です。

1)若くて素人っぽい女の子が中心

キャバクラも、ホステスクラブと比べて働く女性の年齢層が低く、素人っぽい子が多いのです

2)ファン層、客層が若い

AKBについては、少なくとも初期は若い男性ファンが中心だったと記憶しています*2。キャバクラの男性客も、ホステスクラブと比べれば若い層が中心です

3)ファン投票による競争関係

キャバクラも指名本数などにより、女の子同士が競い合う仕組みです。

4)アイドル要素を持ち合わせた非正規雇用

AKBは「芸能界の予備校」という位置づけ*3であり、夢追い型のフリーターを連想させます。キャバクラで働く女の子も当然ながら、ほぼ全員が非正規雇用のアルバイトです。

5)4とも関係しますが、雇用が流動的

キャバクラ嬢は、接客態度が悪かったり異性関係の問題を起こしたりした場合、簡単に解雇されます。バイトなので当然といえば当然ですが……AKBの研究生にも「生活態度」やパフォーマンスを審査される「セレクション」制度があり、不合格になると直ちに辞めなくてはなりません*4

80年代の流行語にもなったキャバクラは、「おニャン子クラブ」のヒットに象徴される「素人ブーム」に乗って拡大してきたビジネスです。要は素人の女の子をアルバイトとして雇い、彼女たちの「普通っぽさ」を打ち出すことで、プロのホステスが接待してくれる高級クラブとの差異化をはかったのですね。初期のキャバクラでは「3回通えば店外デート」が売り文句でした。

AKBもこれとよく似ていて、基本的には素人の女の子をたくさん集め、人気投票で競わせる仕組みです。ファン(お客さん)との接点を多く作り、「会いに行けるアイドル」として身近さを売りにしています

アキバのAKB劇場にはかつて「当たり券入りガチャガチャ」が置いてあり、「2ショットポラ券」や「お気に入りのメンバーと一緒に専用エレベーターで1階まで降りられる券」などがあったようですね。

AKBのメンバーもキャバクラ嬢も、流動的な雇用環境のなかで「若さと素人らしさ」を糧にお金を稼ぐ女の子たち、という点では共通しています。彼女たちのお給料はピンきりですが、時給換算すればそんなに違わないケースもあるのではないでしょうか。

そして、一部の女の子はトップアイドルや「嬢王(やモデルなど芸能人)」になれるものの、多くは握手会や終わりの見えない営業活動のなかで疲弊し*5若くして辞めていきます。

今回卒業を発表した大島優子さんはかなり長い方ですが、研究生の中には「何か違うな、やだな、つらいな」と、すぐにやめていく子も多いことでしょう。もちろん、アイドルとしての自覚がそれほどない子も多いと思われます。キャバ嬢たちも基本的には「夜の世界で、てっぺんとったんで!」みたいな子はあんまりいません。

ここまでキャバクラとAKBの類似点をつらつら書き連ねてきました。こうした「素人っぽい女の子の性が売りになる」ビジネスは80年代にはじまり、今も拡大し続けています。その延長上に、90年代の「援助交際」もあったわけです。今でも「JKお散歩」をはじめ似たようなビジネスがそこらじゅうに溢れていますね。AKBとJKお散歩、そして援助交際との間に明確な線が引けるのかどうか、深く考え出すとアタマが痛くなるのでやめます。

それでは、今年もどうぞよろしくお願いいたします。 

 

 

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 【北条かやプロフィール】

86年、石川県金沢市生まれ。「BLOGOS」はじめ複数のメディアに、社会系・経済系の記事を寄稿する。同志社大学社会学部を出たのち、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。会社員を経て、14年2月、星海社新書より『キャバ嬢の社会学』刊行。

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*1:初期の頃はよく、悪意を込めてそのように言われていたみたいですね…。そして多くのキャバクラも、ブラック企業の実態と重なる部分が結構あります。

*2:今でこそ国民的アイドルとなり、女性ファンも増えたようですが…そういえばキャバクラ嬢にもAKBヲタを自称する子はけっこういます。

*3:秋元康氏は以前Google+次のようにコメントしていました。「夢が叶う、叶わないを、誰かのせいにしてはいけないということです。夢が叶うなら続ける、夢が叶わないならやめる。(…)僕はAKBが芸能界の予備校として、最高の合格率、進学率を誇れるようにしたいと思っています」(…)詳細はソースをご参照下さい。

*4:もちろん一部の例外はあります。キャバクラもいわゆる「店長など偉い人のお気に入り」はなかなか解雇されないなどの事情があるようです。

*5:一部のAKBメンバーは握手会のあと、数千~1万人以上のファンと握手し続けるために握力がなくなり、ペットボトルの蓋が開けられなくなったりもするようですね。以前テレビ番組でやっていました。