それでも、女性の賃金は上げるべきである。~女性の賃金を上げると、どうなる? 少子化が進みます~

先日、「結婚相手の年収」で互いを格付けしあう女性たちの記事を書いたのですが、そこで改めて思ったことがあります。

日本人女性の平均年収は268万円。男性の半分ちょっとです。出産と育児でキャリアを中断せざるを得ない女性は、長年働いても賃金が上がりづらいのですね。

 

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平成24年度民間給与実態統計調査 p.18より抜粋、男性、女性の矢印を追加した)

 

男性なら「自分の年収」でステイタスを確認できますが、女性はなかなか、それができない。だから「夫の年収」で、自分のステイタスを確認しようとするのでしょう*1

言うまでもなく、昨今の未婚率の上昇は、男性の平均年収が下がったのに、女性が結婚相手に求める年収が相変わらず高止まりしているために、起こっている現象です。高望みする女性と、低収入の男性が余っているのです。

日本人は結婚しないと子どもを産まないので*2、未婚率の上昇は、少子化に直結する大きな問題です。

では、男女の賃金格差を解消し、女性の年収を今よりも上げれば、「高収入の女性 × 低収入の男性」カップルが増え、少子化も解決するでしょうか。

そうはいきません。なぜなら多くの女性は、収入が増えても、男性を養おうとはしないからです。むしろ、キャリアを積んだ高収入の女性ほど、自分より「格上」の男性を求める傾向にあります。よって、女性の平均年収を増やしても、結婚難は解消するどころか、未婚率はますます上昇し、少子化も進行するでしょう*3

それでも、男女の賃金格差を解消し、女性の賃金を上げることは「政治的に正しいpolitical correctness」といえます。なぜなら今の日本では、女性の貧困率が相対的に高いからです。

国立社会保障・人口問題研究所のデータでは、1人暮らしの働く女性のうち、3人に1人が貧困層。シングルマザーになると6割が貧困に陥ります。65歳以上の高齢女性では、過半数が貧困層です(夫に先立たれるケースが多いため)。

こうした状態を改善するためには、「女性の賃金が上がると少子化が進む*4という現実を前にしても、それを実行する必要がある。 

「格差」は、「そこにある状態」として、見て見ぬふりができるものです。「格差はあっても仕方がない」という考えもあるでしょう。一方、「貧困」はそれを許さない概念です。格差とは異なり、「貧困」とは人々のある状態を「あってはならない」ものとして社会が「発見」する、価値判断を含む概念なのです*5

「女性の貧困」という問題を、日本社会が認識している以上、未婚率が上がろうが、子どもが減ろうが、女性の賃金を上げることは必要だといえます*6

余談ですが、この観点から言えば、「結婚難を解決するには、労働市場から女性を排除すればいい。そうすれば男性の賃金が上がり、女性を養える」といった意見は、政治的に正しくない、ということになるでしょう。このような構想は、たとえば「結婚したくない・できない女性」や、「働きたくない・働けない」男性を、排除することにつながるからです。

 【北条かやプロフィール】

86年、石川県金沢市生まれ。「BLOGOS」はじめ複数のメディアに、社会系・経済系の記事を寄稿する。同志社大学社会学部を出たのち、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。会社員を経て、14年2月、星海社新書より『キャバ嬢の社会学』刊行。

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*1:もちろん、全ての女性がそうとはいえませんが…

*2:要は「結婚」と「出産」がセットになっているということです。

*3:少なくとも短期的には。

*4:繰り返しになりますが、少なくとも短期的には、です。長期的にはそれこそ、やってみないと分かりません。

*5:岩田正美、2007、『現代の貧困』筑摩書房.

*6:もちろんこの考え方は、「男性の賃金を下げる」という政策を導きません。男性の貧困も、同時に解消すべき問題だからです。