アラフォー向けファッション誌がやたらと元気な件について

2013年10月17日。朝日新聞デジタルのトップ画面には大々的に、とある広告が打たれていました。

 新雑誌創刊!好景気回復!?

バブルを経験した女性達『GOLD世代』が熱い!!

 

どうやらまた、バブル世代向けの女性ファッション誌が創刊されたようです。

表紙は現アラフィフでイギリス在住の今井美樹。キャッチコピーは「どこにもないものが見たい」です。

 同誌が対象としているのは、日本が右肩上がりの80年代に青春時代を過ごした現在、45歳~52歳くらいの女性たちです。編集長の内山しのぶ氏によるコメントは下記の通り(一部抜粋)。

「一流ブランドに一流ホテルに一流レストラン。 オペラやバレエ鑑賞に海外旅行。 本物にたくさん触れることで、心が豊かになる喜びを知りました。(中略)頑張れば何事も叶う!できないことはない!と。」

 

「あれから20年以上。結婚して子育てもして仕事もして、やるべきことは頑張って前だけ見て走ってきたGOLD世代。40代半ばからアラフィフ(50歳前後)となった今、妻でもない母でもないキャリアでもない一人の女性として自分と向き合い、もう一度輝きを磨く時間が始まりました。

 

さあワクワクする扉をもう一度開けて 本物の輝きをGOLDと一緒に増していきましょう!

 ここ5~6年ほど、雑誌業界では若者向けよりも「アラサー世代以上向け」に勢いがあります。「アラフォー」が2008年のユーキャン新語・流行語大賞に選ばれたあたりから、流れが変わってきたようです。

 ■2009年には、「美魔女」ブームを創りだした『美STORY(現在は『美ST』に変更)』が創刊。

 ■2010年には「ツヤっと輝く、40代女子力」がテーマの『GLOW』が創刊。表紙には江角マキコ小泉今日子などが起用され、「40代女性誌ナンバー1」を謳っています。 

 ■2013年4月には、『美魔女』ブームの仕掛け役である山本由樹氏(元光文社)たちが作った、おしゃれでカッコイイ40代(独身)女性向け『DRESS』が創刊されました。*1創刊号の表紙は米倉涼子。ブランドの広告だらけで評判は芳しくなかったようですが…

 ■50代女子だって負けていません。2008年には既に、かつて『JJ』を読んでいた層を取り込もうと『HERS』(光文社)が創刊されています。キャッチコピーは「ズルく可愛く、美しく」。

 一方、若い世代向けの雑誌は元気がありません。「エビちゃんブーム」で一時代を築いた『Cancam』ですら、販売部数は3年前と比べて半分以下。若い女子の「雑誌離れ」が進んでいるのは明らかです。

 電通のレポートを見ても、2012年の広告費は、消費欲が旺盛なアラサー、アラフォー女性誌では増える一方で、『Cancam』『JJ』など20代前半向けは、部数・広告収入ともに低調だったということです。あらら…

 ギャル雑誌の休刊も、全く珍しいことではありません益若つばさが卒業した後、『popsister』は休刊しましたし、00年代後半には『小悪魔ageha』のマネをした雑誌が何冊も創刊されましたが、現在残っているものは一つもありません)。

 最近の若い女子は、とにかく雑誌を読まないのです。

 『私に萌える女たち』(米澤泉著、講談社、 2010)によれば、関西の女子大生たちは数年前から、ファッション誌を読まなくなったそうです。バブル世代が若かりし頃は、「ハマトラ」「ニュートラ」など、雑誌に載っているスタイルを真似るのがステータスですらあったのに……。

 一体、若い女子たちの何が変わったのか。

最近の女子大生が参考にするのは、友人やブロガーのファッションです。雑誌に載っている流行を完コピするなんて「ダサい」。安くてカワイイ服で「自分らしさ」が出せればそれでいい、のです。

 実際、おしゃれな人ほどファッション誌は読まない、というのは私の周りの女子にも当てはまります(私などは自分のセンスに自信がないので、ファッション誌を何冊も読んでしまうタイプですが)。

 彼女たちはなぜ、雑誌に惹かれないのか。 

 今の20代は、バブル崩壊とともに生まれ、もの心ついた頃からずっと不況の「不況ネイティブ世代」です。「〽バブル崩壊生まれ 失われた20年育ち」で、一流レストランやオペラなんて行ったことないし、メッシー君アッシー君、あと何でしたっけ?みたいなスタンスが基本です。

 『GOLD』が言うように「頑張れば何事も叶う!」なんて、思えないですし。ゆるく楽しく、ジモトで生きられればそれでいいかな、という「デフレカルチャー」*2の中で生きているのです。

そんな「不況ネイティブ世代」である私たちは、アラフォー向けファッション誌にあふれる価値観=「誇示的消費(見栄のためにおカネを使うこと)」*3に対して、正直、それほど共感できません。

 若い女子たちの価値観は、ひたすらにブランド物で着飾り、まだ見ぬ夢(=「どこにもないものが見たい!」)を追い求めるところにはないからです。 

 「ウチら」の世界で行きている若い女子たちは、雑誌の価値観に染まることをむしろ「ダサい」と捉えています。雑誌のキラキラした世界に憧れるのは、せいぜい中学生くらいまで(だからローティーン向けの『nicola』や『popteen』などは、まだ売れているわけですね)。でもそんな彼女たちさえ、大学生にもなれば雑誌の価値観に染まろうとすることの「イケてなさ」に気付くことでしょう。

 さてさて冒頭に戻って、バブル世代向け新雑誌『GOLD』。出版不況、というか雑誌不況の中、そのまばゆい価値観がどのくらい今の40代女性に受け入れられるのか、今後も注目していきたいところです。

 

 

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*1:幻冬舎子会社である「株式会社gift」が発行元ですが、最高顧問が秋元康、名誉会長には松浦勝人(エイベックス)、取締役会長は見城徹幻冬舎)、取締役副会長・藤田晋サイバーエージェント)というメンツに怪しげな香りを感じたりもします。

*2:速水健朗氏の定義による

*3:ヴェブレン『有閑階級の理論―制度の進化に関する経済学的研究』